[コメント] カナリア(2004/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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この話はフィクションである。 例え10年ほど前にとても大きな事件を起こして日本中に大々的に報じられたカルト宗教団体に似ているとしてもこれはいかなる意味でもフィクションであり、関係が、ない。だから少年が最後に「それでも生きていく」というセリフにも素直にも感動してうなずける・・・わきゃねえ!そんなわきゃねえ。
明らかに現実で起こった事件であり身近な事件であったから当然現実と比べる。比べると明らかにこのフィクションの話は明快で分かりやすくて現実に似ていない。『A2』なり『誰も知らない』でもあった現実を映す鏡としての機能はこの映画にはない。態度が違う。現実を模してフィクションを語るという態度。現実はフィクションの生贄じゃねえ、とこの映画を観て思う。 例えば『害虫』の宮崎あおいのただならぬ佇まいもそこにはなく、施設を脱走して接する他者は皆、安易に共感しえる優しい他者達。つまり他者じゃねえ。『EUREKA』とは明らかに違う。だからそこにトラブルもない。ただ一人で苦しんで、苦しんで、悟りを開いたように「汝を許す」とか言っちゃうだけ。お前のなかの混乱が見られねえんだけど、と言いたくなる。 事件後、それを抱えて生きている人々が今どんな風に生きているかを考えた時に、この映画は普通に俺らが想像しうる態度や立場でしか人物が生きていない気がする。『A2』やあるいは村上春樹の『アンダーグランド』とかみたいな人間つーものの多様性がない。紋きり型。フィクションなら大いに結構だろうと思う。ただそれがまったく現実を凌駕していないのだ。それが苛立つ。 2005/04/03
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