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[コメント] 壁の中の秘事(1965/日)

陽の当たらぬ風俗の戯画として現代でもそのまま通用する切り口は見事なのだが、視点が皮肉一辺倒で不満が残る。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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別に団地でなくても人生の不満は方々に発生するものだから、団地特有の病を描くにはその方法が求められるはずだが、本作にはそれがない。冒頭に部屋番号を並べたぐらいのもので、望遠鏡は団地特有とも思われないし、洗濯物が下のベランダに落ちる件などは微笑ましい程度である。そしてもっぱら「壁が」などという当時でも今更だっただろうサルトル風の科白で済ましてしまう。

人物の肉付けに乏しいのが不満の第一で、皮肉に走るとそうなるものだが、あの浪人生など最後に彼の人となりが現れてきて、興味深くなった途端に映画は強引に終わってしまう。まるで心情の吐露などこの映画では禁止されていますという調子があり、だから正しく皮肉に留まった作品なのだろうし、監督はそれ以上を望んでいなかったように思われる。こんな連中、これでたくさん、といった処か。

なお、団地を風刺した映画は本作が別に嚆矢ではない。スターリンに幻滅という日本共産党のふたりは判りやすく(『日本の夜と霧』その後ね)、かつて聞きかじっただろう知識により戦争関連株で儲ける元左翼という造形は最低で、もっとやっつけてやりたい処なのに、やはり肉付けに乏しい。一方、原爆症に対する扱い(ケロイドが薬品で治ったってことなのか)は微妙で、やり過ぎのきらいがあると思う。結局、本作は、ポルノ制作サイドを騙して撮られた云々という逸話のほうが面白い。『兵隊やくざ』など白黒明白な勧善懲悪ものより本作を良としたベルリンの見識は立派なものと思う(この年の金熊は『アルファヴィル』、銀熊は『幸福』と『反撥』)。

(評価:★3)

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