類似テーマを扱いながら、悪い意味での「社会派」の枠に収まらなかった点で、『コースト・ガード』よりも遥かに好感が持てるギドク作品。

米軍基地の在る韓国の寒村を舞台に、およそリアリズムからは懸け離れた奇妙で複雑な人間関係が交錯・展開し、期待通りに痛々しい、そして慈愛に満ち溢れた、ギドクワールドが構築されている。

まず認めておかなければならない。私も、例のシーンでは、犬神家か！てなツッコミを入れつつ体を震わせて失笑してしまった、これは動かしがたい事実だ。しかし、信じて欲しい。私は、その後で直ぐに反省した。猛省した。ヌクヌクと育ったお気楽日本人の代表たる私が、どうして彼の死を、高潔な精神を持った一人の青年の悲劇的な末路を、笑い飛ばすことが出来よう？彼は田んぼにハマったのではないのだ。無残に引き裂かれ醜くひび割れた母国の土壌に、自ら矢と成り突き刺さって死んだのだ。

いや、そうだ。彼こそは今回ギドクが番えた矢の中でも最も鋭利な一本だ。美容整形や、在韓米兵に向けられた他の矢よりもずっとずっと痛い。

怒りを向ける場所すらも無いこと。それこそが真の悲劇だ。

（＠シネスク東急）