[コメント] 殴られる男(1956/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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ボギーこと、ハンフリー=ボガートの実質的な遺作。
前にある映画の本を読んでいて、ジャン=ギャバンについて書かれていた部分を読んでいたら、ギャバンの事を「シニカルだが、実はロマンチストな役」と書かれていた。それを読んだ瞬間、なんだこれだったらアメリカにもいるよ。と瞬時にボギーの姿が浮かんだ。
ボギーはそういう、薄汚れた行いをやりながらも、心の中できちんと正義を遠そうとしている役を一貫して演じた役者であり、そんな役が本当によく似合った人だった。私にとっても、オールタイムで大好きな男優を挙げろと言われたら、間違いなくこの人が入るだろう。
『カサブランカ』(1942)を初めとする彼の役柄は、最初意に沿わない地位を強いられて、生きるために仕方なくそう言う境遇に順応しているのだが、やがて本当にすべき事を見つけ、最後に信念を貫くと言う点にある。考えてみると、彼の主演作のほとんどがこの定式に則っていることに気づくのだが、どれだけベタであったとしても、それが見事にはまり役となっているのが凄いところだ。
そして最後に見せるボギーの笑顔が最高!信念を貫くと言うことは、社会的に見るなら負けを意味することも多い。だからその笑みは会心の笑顔ではない(俺たちは天使じゃない(1955)の時は別格か?)。その笑みはどこか後ろ髪を引かれるような、シニカルな笑みとなる。私はこの笑い方が大好きだ。
それで本作の場合、プロボクシングの内幕ものになっているのが最大特徴で、当時のボクシング界とは、こんな横行がまかり通っていたのだろうか?とちょっと本気で薄ら寒い気持ちにさせられてしまった。プロモーターにとって、ボクサーは商品でしかなく、しかもそれは日持ちのしない旬ものと言った感じがある。これは極端すぎる描き方かも知れないけど、百数十万ドルを稼いだボクサーの収入が50ドルに満たないとは、ちょっと酷すぎ。リアリティがあるかどうかはともかく、内幕ものとして大変面白く仕上がっていたし、ラストも爽やかに締めてくれた。良い作品。
本作が遺作となったボギーのみならず、スタイガーも憎々しげな役を巧く果たしていたし、かなり好きな作品だ。
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