[コメント] ヒトラー 最期の12日間(2004/独=伊=オーストリア)
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一人の人間の狂気よりも、それを利用しようとする者たちの野望や欲望が、それをバックアップしていくという仕組みの恐ろしさ。人間はそういう仕組みを作りあげるがゆえに恐ろしいのだ。
総統を超人的に描かず、一人の人間として描くことは、ことが一人の指導者の野望だけで成し続けられたのではない、ということを言いたかったからだと思う。なぜなら、その指導者が「もうやめる」と言ったしても、それですぐに幕が下りるわけではないからだ。「それはだめです」「お逃げください」「わたしたちはどうすればよいのです」。自分の実力が自分の今日の地位を築いてきたのだという自負を、多かれ少なかれ抱いていた人間たちは、何のかんの矜持を主張したところで、「もうやめる」というその一言ですべてを失うことに気付くのである。
「その時」がうすうす予感され始めてから、ついに「その時」が訪れてくるまでの空気の不穏さ。密室の中でそれはたっぷりと描写されるが、監督は、その不安感がなぜ今までは潜んでいて、なぜ急に現われてきたのかを観客に感じ取ってもらいたいのだと思う。その時とは、見て見ぬふりをしてきた自分の意志との対面に他ならない。組織の意志のもとに長らく忘れ去っていた個人の意志に立ち返ったとき、どれほどの覚悟で今までの行いをしてきたのかが暴かれていく。馬脚をあらわす者、信念を疑わない者、何も知らなかった者、わかっていた者、そしてわかって欺いていた者。
エンドクレジットで延々とその人間たちの量刑が紹介されるが、それは果たして妥当な罰なのかどうか、見るものに考えさせるだろう。組織とその成員たる個々人のそれぞれの果たすべき責任の所在。一人の人間の仕業では断じてない、ということをこそこの作品は描いたものだった。それは、現実の我が身が属する組織に置き換えても考えるべきなのだと思う。
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