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[コメント] 姑獲鳥の夏(2005/日)

個人的には京極堂は豊川悦司にやって欲しかった。これ以上ないかと思う位の不機嫌な面構えで。(以下本シリーズの一ファンとしての長大なボヤき)
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







堤真一自体は好きな俳優ではあるけど、京極堂のある種の達観振りというか、浮世離れした雰囲気がイマイチ感じられない。そもそもそんな簡単に笑みを浮かべるキャラではないハズなんだけど・・・。

原作を映画化するにあたって。そもそも個人的には、延々と繰り広げられる薀蓄をそのまま映画に持ち込むなんて無謀なことは期待してなかったし、本編の最大の種明かしを説得力をもって映像化するのは至難の技だと思っていたので、それに対しても大目に見たいと思う。しかし、それらを除外視した上で、なおこのシリーズには欠かせない大きな魅力が残されている。キャラクター造形である。本編を観た時の最大の失望は、まさにその点での不満だった。

原作の中では、京極堂にしろ、榎木津にしろ、キバシュウにしろ、一見したトコロではある意味戯画的とも言える位極端なキャラなのだが、それぞれが独自に表向きとは相反する要素を抱えていて、それが非常に微妙な匙加減で見え隠れするトコロが最大の魅力だと(個人的には)思うワケで。少なくとも、そのアンビヴァレントな内面が、個々のキャラに魅力的な立体感を持たせている。

個人的に認識しているそれぞれのキャラはというと・・・

京極堂(中禅寺秋彦):「この世に不思議なことなど何もないのだよ」というお馴染みのセリフ。しかし実は、誰よりもそれを超越した「不思議」を切望しているのは京極堂本人であって、それゆえにまやかしの不思議を過敏なまでに嫌っている。どの話の中でだが忘れたけど、そんな言及がされている。加えて極めて現実的で冷淡なキャラでありながら、これ以上どうしようもないラインで微妙に温情(らしきもの)を見せるところも魅力であったりする。

榎木津礼二郎:一口に言うと、破天荒。しかし「人の記憶が見える」という特殊な能力は、しばし特殊ゆえの異形としての存在を強調されることがある。加えて白痴的とも言える器の美しさゆえに、過去に様々な同性からのセクシャルな接触を受けてきたということを考えると、その天真爛漫なまでの無軌道振りは一種の裏返りのような気もする。本人曰く「ゲイを差別をするつもりはないが好きではない」。さらにことごとく人の名前を覚えないクセして、ごくたまに手紙か何かでキッチリ間違えずに本人の名前をしたためる、という底知れない面もあり。

木場修太郎(キバシュウ):そのゴツく醜い風貌といい、いかにも女性が嫌いそうな男の匂いプンプンのキャラである。が、さぞかしガサツなキャラなのかと言えば、実は自分の住処は意外と小奇麗に整理整頓されていたりするらしい。そして、商売女から絶大な人気と信頼を得ている半面、シロウトの女には全くと言っていい程手を出さない。個人的には、表向きの男臭さとは相反する、女性的な傷付きやすい繊細さを内面に隠し持っているキャラなのでは、と思うことがある。非常に興味の尽きない男である。

関口巽:そのイヤミなまでのネガティブ思考は、ロマンティストであったり、人を容易く信じてしまうことで、過去に散々痛い目にあったがゆえ。感情を発露させるにしても、生来不器用な男なので、ことごとく裏目に出てしまう。ともあれ、この重度の自虐キャラはまるで過去の日本の純文学のパロディではないか、と思ったりする。存在自体が亡霊のような男である。が、その徹底してネガティブ振りに、時折変なおかしみが漂っていたりもする。

・・・とまあ、よくもこれだけと思う位、それぞれが個々に異彩を放っている。で、この映画に戻ると・・・誰一人独自のアクがない。というか、京極堂、榎木津、キバシュウに関して言えば、誰がどの役を演じてもさほど支障はないのではないか、とも思ってしまう。例えば外国人がこの映画を観たとして、この三人の見分けって意外とつきにくいのではないかと思う。個人的なこの映画への大いなる不満は、しっかりキャラが描けてないことに尽きる。(ちなみに言っておくと、女性陣はどうとでもなるので、どうでも良い。というのは、京極夏彦は女性は「不可思議な生き物」以上の描き方をあまりしないから。妹の敦子なんて極端な話、誰が演じても大差ないと思う。)

とはいえ、他の方もおっしゃってますが、京極夏彦の映画化というよりは、京極作品をモティーフにした実相寺監督的映像の羅列でしかない気もする。しかし例えそうだとしても、全てが前時代的で面白くない。「アヴァンガルド」という言葉の響き自体が、既に今となっては古色蒼然とした趣を呈しているのと同じことかと思う。

追記:この顔ぶれで「魍魎の匣」の映画化は観たいとは思わないけど、一番のお気に入りキャラなもんで、鳥口の登場が捨て難い。「うへえ」が観たい。

(評価:★2)

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