[コメント] 妖怪大戦争(2005/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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こういう子供向け映画を評価するときっていつも「僕がつまらなかろうが、子供が観て楽しいならいいんじゃないか」という考えがよぎります。だけど今作はそこをわかって尚ちょっと悪質な感じを受けました。夏休み映画だから子供騙しは大いに結構なんだけど、そこに「子供を騙そう」という意図的な臭いを感じるんです。
僕はもともと三池崇史の垢抜けなさがあまり得意じゃないんですけど、それでも“今の神木隆之介君”を観ておきたくて足を運びました。正直子供向け映画なら、三池お得意の「面白いだろ?これ」トーンも少し薄まるかなぁという期待もあったんです。要は“手堅いやっつけ仕事”をしてくれていればいいなと思っていたわけです。ところがまぁ話が進むに従って出てくる出てくる。妖怪たちの会議での「んー、じゃ、解散!(ドテッ)」とか、「危ないので良い子は真似しないでね」とか、「どこかで見たことのある笑い」が連発。斜に構えた笑いが三池の持ち味の一つだとは思うのですが、プロなんだからそこに借り物を持ってくるのはやめてほしい。それはあなたのオリジナルじゃないし、パロディとしても成り立っていない。
そして本当に質が悪いのは、そんなヌルい面白トーンの中で描かれる主題が全部「上っ面」だってことです。僕がこれを最初に感じたのは、「ボロボロになって小さくなり捨てられた靴」の話のときでした。タダシが物を捨てるシーンがあったわけでもなく、このセリフはヒドく唐突に出てきます。だけど物を捨てるのが悪いことなわけじゃない。まだ使える物を捨てるのが悪いんです。きちんと使い切って感謝しながら捨てることは悪いことじゃない。そこを「何となく」なトーンのセリフだけで流しておきながら、「打ち捨てられた物たち」の思い出や恨みを観せてくれるでもない。ゴミ捨て場で「俺まだ履けるよう」と泣く靴とか、「こんなにきれいに映せるのに」と怒るテレビでも見せてくれていればまだ呑めるんですが、あれじゃ「とりあえず言っとけ」としか思えない。
「復讐は人間の証だから」なんてセリフもそう。何故復讐がいけないのか、川姫が何に触れてそれを思ったのかも描かれず、とりあえずそれっぽいこと言ってる。実際あの時点でのタダシの怒りは「スネコスリを改造された復讐」から来ているわけで、そこを掘り下げる努力すらしていません。まぁ考えてみれば三池崇史が「復讐は良くないよ」なんて思ってるはずもなく、結局どれもこれもただのお題目なんです。
そのくせキリンビールへの気遣いだけは充分に存分に打ち出されているわけで、ハッキリ言って何が麒麟送子だと。何がグビグビプハーッだと。麒麟の何たるかも説明せずに、一番搾りの効能だけはでっち上げやがる。どうせならハッキリ「KIRIN送子」と書いてしまえって話です。
商業主義やタイアップが悪いとは言いません。映画を作る上の事情はお察しします。だけどそれは本題がしっかり描けていてこその話。東京の市井の人々も登場せず、妖怪たちが決起するでもなく、だから当然相互理解が得られるわけでもない。妖怪が格好良く見えるシーンがないなんて、じゃあお前は何がしたいんだっちゅう話ですよ。ただただ上っ面で偶然揉め事が解決し、世の中の誰一人変わるわけでもなく、残ったのは何だ、真っ白な嘘か。あれも無理矢理だったなぁ。
結局借り物の笑いの上にただ標語をペタペタ貼り付けたみたいな出来になってて、大事な物が何一つ描かれてはいません。冒頭に書いた通りそれで子供が楽しむのは構わないんですが、作り手にはせめてもうちょっと地に足の着いたテーマを持って欲しいなぁと思うわけなのです。制作の錚々たる面子が勿体ないよ。
ただ、三池の面白トーンに犯されることのないお笑いからの出演陣や、抑えた演技の時の神木君はとても良かった。猪木の話の時の「いや・・・それ普通にあり得ないから・・・」には1,800円払えるなぁと思いました。
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