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[コメント] 春の雪(2005/日)

純愛ブームの真っ只中で、今一番「純愛」で名を売っているふたりを主役に据えて映画化されたことに不安が募る。よもやこの一作だけで『豊饒の海』四部作を終わらせるつもりではあるまいな?
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







単なる純愛映画として観た場合、これは大いに不満の残る作品である。

まず主役の妻夫木が絶対的に下手だ。自分はこれまでこの男優の演技力を取り立てて考えてみたことはなかったのだが、日本人のうちのきわめて少数の人々しか把握していない「貴族」という階級について、全く勉強を怠ったように棒読み演技が続く。対する竹内のふだんの演技はよく知らないのだが、禁断の恋に燃える女は彼女の演技からは感じとれない。ゆえにこの貴族同士の恋はどちらにも感情移入することはできず、眠気を誘われる。行定監督の描く背景は、この前の『北の零年』から感じていたのだが凡庸で吸い込まれるような魅力を感じない。そして設定が、日本には100年と定着しなかったヨーロッパ的貴族社会のトラブルである。これでは惹かれるものがない。

だが、ちょっと視点を変えると、この『豊饒の海』連作に、意外にも行定監督が肉迫しようと努力している事実が垣間見えて、ちょっと戸惑う。読んでいる方には今更だろうが、「夢と転生」をこの作品はモチーフとしている。その予知夢とおぼしき夢が、単なる純愛映画としては異常なくらいに頻出する。そして引き裂かれた恋人たちは転生を口にし、この時代ではなく次の世代として会おうと約束しあう。 そして物語の水先案内人としての本多の存在である。恋愛物語としてなら必要もないかもしれない彼の重要度は、この「ただの純愛映画」でも意外に高い。これは、やがて主役の転生に現代に到るまで立ち会うことになる、彼の今後の活躍を期待させる。

はじめて読んだ『豊饒の海』では、自分が中学生だったからかもしれないがこの『春の雪』は正直退屈な部分であり、次なる『奔馬』から俄然面白く感じたものだった。この『春の雪』に続くあとの三部は果たして映画化されるのか。はじめから諦めてはいるのだが、ほんの少し「やってくれないかな、できれば別の監督で」と期待などしている自分なのである。

(評価:★3)

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