[コメント] 野良犬(1949/日)
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思うに日本の風景と言うのは劇的に変わった時代がある。明治維新、世界大戦の空襲後、その戦後の十数年の建築ラッシュ。興味のない方も多いだろうがこれって結構貴重な事だと思うのだ。家やビルは5年や10年でガラリと変わるわけではない。少しずつ変わっていくもんだ。それがこの映画が撮られた時代は10年前存在しなかった建物がいたるところに並ぶ。ピストルを盗まれて慌てて街の十字路に立つ主人公。その背景がパンしていくと空襲で焼け野原にされた後に建てられた新しい家(と言っても安そうな家だが)がズラーっと建っている。主人公が町の中をさまようシーンでも当時の仮組みのバラック小屋がやたらと映っているしね。
自分としてはこれだけでも十分貴重な作品だと思う。未来志向のSFをCGでやるのも十分楽しいのだがこの一時代、恐らく日本という国が一度しか通過しない雑踏の人々と街並みを映している。それをふんだんに使った黒澤のこの作品は十分に『ブレード・ランナー』だと思うのだ。
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この時代の洋・邦画に共通して言える事なんだがこの数年前に信じられない位沢山の人がなくなっている。ピストル盗まれて人が何人死のうがそれがどうした、という世の中であっただろう事は容易にわかる。実際主人公が拳銃を盗まれた事を上司に伝えた時の「で?」みたいな反応はちょっと今じゃ考えにくい。これは他に犯人の恋人だったダンサーの「人が死のうが知ったこっちゃない」という態度からも窺い知れる。思うに当時の映画界で殺人を物語りのメインに置くのはかなりハードルが高かったのではないだろうか。
黒澤監督は人が死ぬ事に対して強烈に嘆き悲しむ演出を複数回に渡り意図的にしている。それは戦争が終わった後、人の不幸に鈍感になっていた当時の人々に対する警告とでも言うか・・・。新米刑事にベテラン刑事が何度も言う「君ね、犯人の気持ちなんてそんなのどうでも良くなってくるもんだ」なんて台詞は恐らくはそういう事だろう。
綺麗なドレスが欲しいのでトマトを作っていた人が殺された。早い話がそれを言いたかった映画だと思うのだ。
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