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[コメント] 羅生門(1950/日)

三船敏郎のデタラメっぷりにドキドキした。
づん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







小説の方よりも登場人物一人一人のキャラがしっかりしていて、多襄丸なんて盗人なのになんとも豪快で、どことなく愛らしくて憎めない。小説を読んだ時に私が作り上げた"多襄丸"とは全く別の人物像で、私は自分の痩せ細った想像力が腹立たしくすらなりました。

そんな奔放な多襄丸を演じた三船敏郎は、ゲラゲラ笑いながら検非違使の前で喋るシーンなんかちょっと見てられない程演技が下手でものすごく驚いたんですが、藪の中でのシーンになるともう目が離せなくなる。男を演じる森雅之は整った演技をしているのに、デタラメっぽい三船敏郎にばかり目が行く。なんと危うく、そして目が離せない役者!でも相手が森雅之だったからこそ、この三船敏郎のデタラメっぷりが際立ったのかな、とも思いました。

そんな二人が取っ組み合いをするシーンもとても好き。お互い腰が抜けたように地面を這いつくばって、ヒーヒー言いながらぐだぐだ切り合っている。多襄丸がとうとう男を追い詰めた時も、持つ刀がガタガタ震えている。筋肉隆々の逞しい二の腕がガタガタ震えている。そういうシーンがすごく好きでした。全然かっこよくはないんだけど、嘘臭くなくて好きです。

そして京マチ子のまだ幼さの残る顔にますます狂気が映える。顔を覆った指と指の間から覗く瞳の魅惑的なことといったら!この数年後、『雨月物語』でまたしても京マチ子にやられる森雅之っていうのもなんだか因縁めいていて面白い。(そうは言っても共演が多い二人なので、他の共演作品も是非見てみたいところです)

それから冒頭とラストの羅生門のシーンは原作にはありませんが、アレはアレで私は好きです。ちょっとクサいなとは思いましたけど、黒澤明って人の人の良さが表れているシーンだと思います。『銀嶺の果て』の脚本といい、人の良さそうなイメージがなかったので、私的にはある意味衝撃でした。

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08.04.28 記

羅生門』<デジタル完全版>を観ました。待望の黒澤映画、初の劇場鑑賞。嬉しすぎて涙出るかと思った。当然の事ながら、やっぱり家で観るのとは全く違った感動がありました。

冒頭の半壊した羅生門を見た時、ゾっとした。鳥肌が立った。映画のダイナミズムを改めて感じたというか、黒澤のダイナミズムを実感した。決して大きいとは言えないスクリーンでしたが、ものすごいド迫力でした。ビックリした。

映像は恐らく、ものすごく綺麗になっていると思う。また聞き取りにくいと言われている台詞も、聞きやすくなっていたと思う(自分の耳が黒澤作品の台詞に慣れたせいもあるのか?分からん)。早坂さんの音楽もめちゃくちゃインパクトありました。画面が大きいと五感もそれだけ冴えるのかな?

そして大画面で改めて観て感じた"負の点"は、独特の間。この間は現代映画には絶対にない間で、正直なところ一瞬フラっと睡魔に襲われた事は隠しません。古い映画が敬遠される最たる理由はこの独特の間だろうなと思いました。この独特の間が良い意味で作用している作品も沢山あると思いますが、今作に関して言えば、私は若干辛かった。

それから4パターンの解釈もさすがに多いと思った。90分という尺の短さにも関わらず、ものすごく長く感じた。だけどもやっぱり凄い。志村喬の見た4パターン目の威力はハンパじゃない。役者の演技がぶつかり合って、火花が散るほどの力量を感じる。未だ黒澤作品を制覇出来ていないのですが(てか、見るのがもったいない)、これから一生かけて、黒澤作品を1本でも多く劇場で観たい!(特に『野良犬』が観たい)

今回劇場で改めて観て、長所も短所もものすごく目に付く事に驚きました。だからこそやっぱり黒澤作品全部劇場で観たい!そう思いました。

それから一緒に行った彼が、見終わったあと、しきりに恐ろしい恐ろしいと言っていた。志村喬が一番恐ろしかったと言っていた。最後の笑った顔がものすごく怖かったと。シネスケで同じ感想を書かれている方がたった一人いらっしゃいますが、まさかそれと同じ考えを彼が発するとは思ってもみませんでした。個人的に、黒澤さんが性悪説を説くとは考えられないので、それは黒澤さんの本意ではないと思う。でもそういう見方も出来る、色んな解釈が出来るっていうのは、やっぱり面白い映画だからこそだと思いました。

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09.05.18追記(09.05.16<デジタル完全版>劇場鑑賞)

(評価:★4)

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