[コメント] 蜘蛛巣城(1957/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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オープンセット中心の終盤は確かに世界レベルだし、能と山田五十鈴の使い方も面白く、省略も見事、また、スモークやパンやコマ飛ばしを使った幻視・映像表現も慎ましくて好みなのだが、室内シーンに於けるシンメトリーへの執着=格式高さへの志向については、どうもわざとらしくってついて行けない。映画俳優・三敏敏郎の舞台俳優的演技が浮ついて見えてしまう。この人は怒ってる顔も、苦悩している顔も、皆同じなのだから、いつものようにもっと肉体の運動を伴う演出を施して欲しかった。大袈裟なら大袈裟なり遣り方ってものがあるだろう。
本筋については概ねこのような印象。
次いで細部について。この映画の細部は私には非常に魅力的に映った。
まず魔女の造型。北欧神話のノルン、ギリシア神話のモイラと云った運命の糸の女神を想起させる。この物語が人間の避けられない運命、悲しい性についてのものだということを予言する。後半は人を狂わせる西欧の泣き妖精バンシーと化し、至極日本的でありながら同時に脱日本的でもあるという特異なオカルティズムを醸成する。日本人が観てもヨーロッパ人が観てもやっぱりこの映画は怖いだろう。
次に三船と千秋の旗印。即ちムカデと兎である。特に三船のムカデの紋は、古代の英雄:俵藤田(タワラノトウタ)の大百足退治伝説を思い起こさせる。弓矢の名人である藤田が、厄除けの唾を吐けた鏑矢で橋を占拠する妖怪ムカデを退治、その功で竜宮城に召され黄金の武具を下賜されたというものである。藤田は歴史的には実名を藤原秀郷(フジワラノヒデサト)といい、東方で反乱を起した平将門を征伐(影武者もろとも射殺した)した人物なのであるから、叛乱者=ムカデ、それを退治するのは弓矢である、と云うイメージの連想が出来て面白い。そして、無数の矢を全身に受ける三船の姿が、まさしくムカデそのものに見えるというのも驚きだ。
四名の脚本家のうちの誰の発案によるものかは知らないが、単なるシェイクスピアの翻訳と扱うには、余りにも素晴らしい脚色だと思う。
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