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[コメント] 少年期(1951/日)

疎開先で虐められた都会人を描いて徹底的。こういうことあったんだろうなあという戦争裏面史。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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二十四の瞳』の前哨戦のような作品。前半はユルいし(自宅に下宿する大学生が顔を画面に向けないのは何だったのだ)、収束は余りにも紋切型。しかし、疎開先で虐められた都会人を描く中盤は肉厚でとても観せる。思想云々を除いてもよく聞く話だ。誰が悪い訳でもないから隠微に語り継がれる戦争裏面史。学校の自警団組織に、鉄拳制裁に、嫌味な町内会長に、奥さんたちのいがみ合い。当時、都市部と農村部の乖離は相当のものがあっただろう。

沈黙を余儀なくされた知識人とその息子の話としてもリアルだ(体験記である原作執筆の夫人も実際は教授)。笠智衆の教授の処し方が全然感動を呼ぶものではないのがいい。石浜朗は迷惑だろうが、親父だってどうしていいか判らないのだ。今だって、学校が突然訳の判らぬ歴史教科書採用したらそうなるだろう。終戦後(しかも8月15日に突然)やれやれとばかりに説教を繰り出す収束はマヌケでいけない(笠が釣しているのは『父ありき』を想起させるが、対比する労力を払うほどのものじゃない)が、戦中の酷薄なリアルさは格別だった。

本作は杉村春子も尊敬した伝説の女優田村秋子を、映画でしっかり観れる多分随一の作品だろう。役柄が見守り型の善人であり、無口の笠と対照にするためか饒舌な設定のため、残念ながら演技の冴えを確認するのは難しい。畦道で後ろ向きにひっくり返るのは凄かったが。

ベストショットは前半、到着した疎開列車に我先にと駆け込む群衆の件。窓から荷物座席に放り込んだり、はては窓からダイブしたりと、すげえリアル。現在の都会の満員電車事情は当時から比べれば良好である。

(評価:★4)

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