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[コメント] 単騎、千里を走る。(2005/香港=中国=日)

国境を越えた見事なコラボレーション。寡黙な男・高倉健の特徴を生かした上で、チャン・イーモウはしっかりと『あの子を探して』や『初恋のきた道』にも通じる中国映画の感動作を作り上げた。そのあたり、さすが名匠である。(2006.01.29.)
Keita

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 ここ最近は武侠大作を続けて製作し、新たな一面を見せたチャン・イーモウだが、ひさびさにお得意の中国の田舎を舞台にした感動作にカムバック。高倉健という俳優の特性をうまく利用しつつ、きちんと自分の映像作家としての個性も出す。親子の絆を描いた感動の秀作だった。

 広大な中国の大地と、悲しみに暮れる高倉健の背中を見事にマッチさせた映像。これはまさに異文化が同化した芸術だろう。通訳を介す場面を省略したりせず、コミュニケーションのぎこちなさまでしっかり描くところも好意が持て、日中合作としてすごくバランスが良い。言葉が通じないところで、あの排便シーンをユーモラスに挿入したことで、こちらもどこか安心でき、コミュニケーションの深みすら感じることもできた。

 頑固な父親だが実は孤独で優しさを備え持つ男は高倉健にぴったりで、それをチャン・イーモウも熟知した上で物語が構築されている。父子の絆の物語に、他の父子の物語や日本人と中国人の交流、大人と子供の交流などの要素を絡ませ、一番柱となる部分に深みが出ていた。

 クライマックス、自分の息子がすでに逝ってしまったことを隠し、踊りを撮影する高倉健の姿は、感情を堪えている様が感じられ、心を打った。しかも、感情を隠すあたりが非常に高倉健らしいのだ。2つの父子の絆の物語が交錯し、高倉健らしさも生かされ、非常にうまいシーンだと思った。

 チャン・イーモウ作品において、とりわけ傑作だとは思わないが、さまざまな障害があるであろう本格的な日中合作映画として、見事なコラボレーションが実現した作品だ。高倉健はいつも通り演じただけなのだろうが、それをきちんと生かしつつ質の高い作品を完成させたチャン・イーモウはやはり名匠である。

(評価:★4)

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