[コメント] 隠し砦の三悪人(1958/日)
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黒澤明監督が東宝時代の最後に世に出した痛快時代劇。日本人監督にはなかなか使いこなせなかったシネマ・スコープ(ここでは東宝スコープ)を縦横に駆使し、その実力を見せつけた作品となった。
本作を観ると、時代劇のはずなのに、そのダイナミズムはまるで西部劇!シネマスコープを一杯に使った騎馬シーンは圧巻そのもの。監督自身が西部劇に並々ならぬ関心を抱いていたのと、何より馬を撮る事が大好きだという監督の楽しみに溢れたような作品となった。ストーリーも日本の作品とは思えないくらいに垢抜けているし、キャラクターの個性もそれぞれしっかりと作られているので、娯楽大作かくあるべし。と言いたいほどに見事な作品に仕上がっている。
強いて言うなら、ややテーマ性が欠けていた感じはあったが(『七人の侍』は充分娯楽作として面白いものでありつつ、農民と侍の対立構図もしっかり描いていたから)、それも娯楽大作を作ろうと言うコンセプトで作られたのであれば、充分頷ける。
キャラクターに関しては基本的には素晴らしいものだったのは確か。主役4人が皆太股をむき出しにして頑張ってる。三船敏郎の画面映えは言うまでもないが(騎馬シーンも全編本人が出演していて、アドヴァイザーとして撮影に立ち会った流鏑馬の師範にも、「俳優で一番乗馬がうまいのは間違いなく三船敏郎だ」と言わしめた)これがデビュー作となる雪姫姫役の上原美佐も、メイクによりきつい表情が実に映えていたし、立ち居振る舞いにも華がある(何でも4千人ものオーディションでも監督のイメージにぴったりの女性はおらず、東宝がスカウトを全国に派遣し、それでたまたま東宝系列の劇場に映画を観に来た彼女が発見されたという、当時の日本におけるシンデレラ・ガール)。強いて言えばやはり本式の訓練を受けてなかった分、声の甲高さが耳に付くが、物語の大半で喋らせないと言う方法を用いてそれもクリアしてる。口を利けなくさせたってのは卓見だ。
一つ一つの画面が見栄えするし、キャラクター描写は申し分なし。ストーリーも起伏がある。良いことずくめで、並の監督であれば最高点付けられる作品。ただ、当時の黒澤監督作品だったら、もう一つプラスアルファが欲しかったって思うのは…贅沢か?
本作は東宝大作で、1958年邦画興行成績も5位と言う堂々たる成績を残しているが、製作費が予算を大幅に超過したため、監督と製作の藤本真澄は東宝に対して進退伺いを出すことになり、東宝社員としての黒澤監督の最後の作品となった。
この作品の後、黒澤明は黒澤プロを設立。以後の作品は東宝と黒澤プロの連携で製作されるようになる。
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