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[コメント] グッドナイト&グッドラック(2005/日=仏=英=米)

正義のために働くメディアは格好良いですが、実はそれはとっても皮肉な問題だと気付きました。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 赤狩りを題材にした作品も映画にはいくつかある。『真実の瞬間』『赤狩り・マッカーシーの右腕と呼ばれた男』、そして『マジェスティック』(2001)。多分これくらいだろう。私が観たのは『マジェスティック』だけだが、これはマッカーシー自身ではなく、一種のファンタジーとしてまとめられた作品だった。それに対し、こちらは本当に歴史的事実を本当に追っていった作品。

 それで本作の出来だが、実に骨太、且つ大胆な内容で監督としてのクルーニーの実力の確かさもよく分かった。

 本作の大きな特徴は、リアリティを重視したためか、映画の大半が資料映像と会話のみで成り立っているという点。敵役のマッカーシーに至っては実在の役者を一切使わず、全て資料映像のみで作ってしまったというもの凄い作品である。確かに目の前にいて、言葉を喋っている。しかし実は不在のキャラクタ…この設定だけでも震えがくるような設定の妙を楽しめる。代わりにアクションは一切なし。動きがないので、最初の30分はとにかく退屈。特に最初のパーティーシーンはほとんど会話らしい会話もなしで客席をカメラがなめるだけ。このシーンを延々見せられた時は、はっきり言ってこれは失敗したか?とまで思ったものだが、中盤になって、テレビ番組と裁判のシーンに移行していくと、これが全く逆で、動きがないからこそ、逆に気を紛らわせることなく、集中してみることが出来るようになった。後半は食い入るように画面を見ていたよ。物語よりも演出とキャラクタ性の良さだ。

 作品がモノクロになったのは資料映像を違和感なく使うために他ならないが、全般的に白い世界で話が展開していくので、字幕を見るのがきつい。字幕が読みにくいこと読みにくいこと。英語全部を理解できてこそ本作は本当に楽しめるのかもしれない(前々から気になっていたが、字幕のちらつきって、なるほど地が白い場合、それによって字を見せようと言う作為的なものだったのだと納得)。

 ここで思うことは、メディアの持つ力の強さ。特に作為的に操作された時、それは一人の人間を破滅させるのみならず、歴史をも作ってしまうと言う事実だった。

 はっきり言ってしまうと、本作にヒーローはいない。いや、ヒーローがあってはならないのだ。マッカーシーはマッカーシーで自分が信じる信念に従って活動したのだし、対してエド=マローは「良心」という名の偏向した思いを持って報道を続けている。そのどちらも実は正しいし、間違っているのだから。メディアとは皮肉なもので、「良心」というものを持ち出せば持ち出すほど報道は偏向していくのだ。メディアは決して中立にはなり得ない。と言うことを奇しくも本作はあからさまにしてしまったのでは?クルーニー自身そこまで考えていたのかどうか分からないけど、これはかなり怖い作品だよ。

 だからこそ、最後にエドが「良心を」と強調するシーンは、もの凄い皮肉な思いで観させられた。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)Orpheus jean[*] Keita[*]

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