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[コメント] 間宮兄弟(2006/日)

森田監督の原点、即ち『の・ようなもの』や『家族ゲーム』のような、あの若々しい会話が戻った。
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「別にぃ・・・」で一躍悪女と化した沢尻エリカがとてもいい。

懐かしいが『の・ようなもの』で秋吉久美子演じるエリザベスさんの乗りか?それでも沢尻エリカの仕事の前後を見ても、これほど自然で不思議でそしてかわいらしい役はないだろう。

彼女は大女優を目指そうとしたのだろうか?

むしろ、こういう役を大事にして、飛びぬけた余計な背伸びをせずに、自然体で仕事をした方が良いのではないかと思う。最近の彼女はケバい。

否、沢尻さんの話ではない、森田監督である。

森田監督の魅力とは、本人が吹聴し、自己を大きく見せようとする大監督ぶりではなく、キャスティングの面白さと、そのキャラを自らの世界に引き込み、自らの面白さに組み替えることである。

そう、かつて『の・ようなもの』でイモ役者ぶりが素晴らしかった伊藤克信のようなキャスティング。今回はドランクドラゴンの塚地武雅をリラックスさせることによって見事に楽しい映画にしてみせた。

中島みゆきのお母さん役にも驚かされた。ロールスロイスを彼女に運転させるあたりは、『の・ようなもの』の頃より明らかに進化した森田監督だが、いずれにせよ、彼の”乗り”はこの世界だ。これこそが彼の真髄だと思う。

思えば大島渚などが元気なころ、盛んに言っていたこととは「映画監督の仕事というのはキャスティングでほとんど終わっている。」と言っていた。確かに『戦場のメリークリスマス』にしても『御法度』にしても、その前の一連の作品にしても、大島監督がテレビに出て、クイズ番組で賞金を稼ぐ傍ら、自ら人脈を拡大し、映画の世界に素人を使うという発想は、見事に当たっていた。

そして、森田監督も然りである。

の・ようなもの』の秋吉久美子尾藤イサオとか、『家族ゲーム』の松田優作伊丹十三だってそうだろう。つまり、自ら発案した企画で自らの意思で決めたキャスティングで、彼の作品はほぼ決まってしまっている。

その意味で、敢えて批評すると、『そろばんずく』とか『模倣犯』のように明らかに与えられた条件でこなす仕事に良いものが見受けられない。どうも角川映画と関わるようになって、商業的な意思が強く働くようになるに従い、彼の仕事の精度が落ちているような気がする。

黒澤明の大ファンとして『椿三十郎』のリメイクが大失敗だと聞くのは大変つらいことだが、(この時点でまだ見ていませんが)彼の真髄である自ら行うキャスティングが行えなかった名残を感じてしかたがない。

彼ほどの実力ある映画監督が、なぜ好きなように映画を撮れないのか?未だに日本映画の稚拙な部分(たとえば角川のような)が見え隠れしてとても悲しい。

その反対の意味で、この『間宮兄弟』に最大級の評価を与えたいと思う。

(評価:★5)

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