[コメント] ぼくを葬〈おく〉る(2005/仏)
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余命を宣告された男の物語だが、安易なお涙頂戴劇とは正反対の方向へ向かう。死を宣告され、残された人生をどのように生きるかの選択を迫られるという設定で、多種多様な死生観が語られてきたが、今回のフランソワ・オゾンのアプローチは極めてユニークであり、すごく新鮮だった。
メルヴィル・プポー演じる主人公のロマンが取った死を迎えるまでの行いは、客観的に見れば自己中心的と捉えることもできる。ゆえに、この映画を観て、あの男はまわりの人間のことなど何も考えていないと激怒する観客がいても、それも一理あると思う。それぐらい、ロマンの取った行為はパーソナルなものだと思う。しかし、自らに迫った死をどう選ぶか、それは実はものすごくパーソナルなものだとも言える。特に、内面に孤独を抱える人間にとっては…。
わずか3ヶ月の間に自分の人生を輝かせることなんて、もはやできないのかもしれない。ましてや、他人のためになることや、自分の生きていた証を残すことを行っても意味もないかもしれない。自分の内面、そして過去を見つめ、自分がどのようにして自らの死を受け止めていくか。これは重要なことなのかもしれない。ロマンは、最後は携帯電話すらも捨て、自分自身とだけ対面し、静かに命を絶った。ひとり孤独に、誰にも気づかれず、日没の砂浜で…。
ロマンの最期に感傷はない。彼が選んだ道に納得したからだ。彼が亡くなるラストシーンは確かに死を描いているが、あの場面で沈んだ太陽がまた昇るとき、冒頭の少年時代のロマンが砂浜で佇むシーンへ戻るような気もする。生への回帰。生死は繋がっているもの、人生の必然だとでも語るかのようだ。『ぼくを葬る』という邦題、これはうまくつけたものだ。
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