[コメント] お茶漬の味(1952/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
夫婦のすれ違いを描いた作品としても、戦後間もない時期に製作された作品であるのに、現代の夫婦の形にも重ね合わせることができ、普遍的な要素を持つ。夫婦関係に少しでもぎこちなさを感じている夫婦が見たならば、訴えかけるものがあるはずだ。
戦後の日本という視点で見ても、時代をうまく切り取っていることが作品において欠かせない要素であり、他の作品とも共通することだが非常に小津安二郎作品らしい。見合い結婚の良し悪しについて、徐々に家庭内で力を持ってきている女性像、娯楽を楽しむ庶民を見ると戦争の傷が少しずつ癒えてきたようにも見て取れる。
この映画は「価値観がずれていた夫婦がお茶漬けを食べて仲直りする話」と一言でまとめることもできるのだが、「お茶漬け」に集約される過程が実に良い。展開にほとんど隙がなく、小津作品独特のユーモアにも富んでいる。
夫婦ふたりでお茶漬けを啜るシーンは素晴らしいのだが、その直前の台所でのやり取りも同じく素晴らしい。編集という技術が効果的に使用させる映画においては、「腹が減った」という台詞から、そのまますぐにお茶漬けを食べる行為に移行できる。食事の準備という過程は省略もできるのだ。だが、ここではそれをやらない。しっかり準備して、ゆっくりちゃぶ台に腰を下ろして、という手順がきちんと踏まれる。そうすることで、台所のぎこちない共同作業の食事準備が、夫婦ふたりの仲直りへの道に感じられる。ゆっくりゆっくり、関係改善へ向っていくのである。台所のシーンがあったからこそ、「お茶漬けは夫婦の味」という結論により頷けてくる。
お茶漬けを食べたあとに妙子がわぁわぁ泣いたというエピソードは台詞で語られるだけだが、この映画の場合、妙子がわぁわぁ泣くシーンは絶対無いほうが良い。静かに一滴の涙を流すところぐらいまでが画面で見るには丁度良い。“静か”であるからこそ、響くものがこの映画にはある。必要なさそうな台所でのエピソードは見せ、必要そうなお茶漬けを啜ったその後は見せない。この緩急のつけ方が小津の巧さに思えた。
ちなみにボクはお茶漬けも猫まんまも好きではない。でも、この映画はすごく美味しいと思う。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (5 人) | [*] [*] [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。