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[コメント] お茶漬の味(1952/日)

デジタル修復版にて再鑑賞。普段は足を踏み入れない台所で、二人が協力しながらお茶漬けを拵える。ただそれだけのシーンが観る者を惹きつけて止まない。その自然さ、微笑ましさ、そしてちょっとの緊張感とスリル。
緑雨

急にしおらしくなる木暮実千代が違和感なく受け容れられてしまう、魔法のような空気の転換。

それにしてもこの映画はどんな観客に向けて作られたのだろう。明らかに庶民の生活からはかけ離れた上流家庭の、ブルジョワで鼻持ちならない悩みに、当時いったいどれくらいの観客が共感を覚えたのだろうか。この時代にウルグアイに出張、しかもエンジン故障で引き返すなんていうエピソードを平気な顔で挟んでしまう思い切りのよいセンスに付いて行けた観客はどれだけいたのかと思ってしまう。一方で、当時一般庶民に馴染み始めたばかりと思われる、パチンコ、ロースカツ、ラーメンなどの娯楽・食楽を積極的に取り入れるあたり、その後の一億総中流化を恰も予言しているかのようで興味深い。

佐分利信はいつになく殊勝な大らかさを見せ、木暮は堂々とした不遜で貫禄を示す。淡島千景のモダンさ、津島恵子の清廉さが華やかさを添える。

手前←→奥方向のズームやドリーが所々で目につくあたり、静かな中に不穏さを忍び込ませる小津の真骨頂を感じる。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)3819695[*] おーい粗茶[*] けにろん[*] 動物園のクマ[*]

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