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[コメント] 東京物語(1953/日)

【和】:わ、かス、なごム、にき、にこ、のどカ、やわらカ ―人間と人生、ことばと関係、文化と風習、世間と社会、親と子、そして生と死、そういう凡そ凡てのものの「輪廻」が、この作品にはある。
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確かに「日本」を描いた映画である。しかし、それは、この作品にとっては、あくまでもトポスとしてのあるひとつの恣意的な記号に過ぎないと思う。この作品が、海外でも評価が高いのは、勿論、そういう類の日本的情緒の<豊穣>と<芳醇>も(悪く言えば「芸術の観光」)一役買っているだろうが、それだけではなく、人間の心の奥底を揺さぶる輪廻というドラマの普遍性が根底に流れているからではないだろうか。

悪く言えば、この作品の日本語は、手垢にまみれた日本文化において原初的な<ことば>である。だが、それは、小津自身が、映画生涯かけて、彼自身の哲学と揺るぎない信念、人間と人生に対する慈愛、を、そうしたことばに「帰す」ことで、<本質>に迫る、その手段としてのことばなのではなかろうか。

それ故に、ここで紡がれることばの糸、織りなされる語りの束は、喪服の黒のごとく、水墨の黒のごとく、実に美しく、瑞々しく、胸に迫り、時として突き刺さる。だからこそ、多くのコメンテーターの方々がご指摘の通り、「ありがとう」というありふれたことばが、朝露に濡れる青葉のごとく、凛とした生命力を弾くのだ。

確かに我々日本人、この国日本は、すっかり変わってしまった。

だが、この映画『東京物語』が、日本人に限らず多くの人々の心の琴線に触れ、微笑みと涙を呼びさます限り、きっと変わらないものもあるのだと信じ、それを大切にし、またはそれを待つ、その諦念と寛容との美しき平衡が、「和」となって訪れるに違いない。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)ina torinoshield[*] くたー[*] ペペロンチーノ[*]

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