[コメント] 時をかける少女(2006/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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私にとっては細田監督作品初体験になるが、この監督の丁寧さには正味感心した。100分弱の時間内を上手く活かした演出はさすが。の一言。ストーリー運び、キャラクタの魅力、伏線の回収方法など、一種の名人芸と言っても良いくらい。気がつけば全く時間を気にすることなく最後まで観てしまい、心地よいため息と共に映画館を後にすることができた。
特にキャラクタ描写は、主人公の真琴が本当に生き生きと動き回っていて、子供向け作品で培ってきた躍動感が遺憾なく発揮されていたのが何と言っても強みだろう。絵そのものはさほど緻密ではない、本当にアニメ絵なのだが、割りとあっさりした貞本キャラを活かすのは、美術的な美しさではなく、躍動感であると言うことを改めて感じさせてくれる。ストレートな分、内面描写をかなり単純化している印象も受けるけど、本作の場合はそれがプラスに働き、心地良い気分にさせてくれる(一見アクション大作に見せて実は内面を掘り下げる作りの『ゲド戦記』とは大局にあるような作品とも言える)。
ストーリーの起伏も絶妙で、あれ?終わりか?と思わせたところでちゃんと引っ張るメリハリのつけ方も良し。映画は限られた時間なので、途中で時計を見させたらダメ。見ずに済ませられたのもこの演出のおかげだ。それに結構旧作映画版のオマージュにもあふれているため、旧作好きだったら是非お勧めしたいところだ。
そう言う意味では映画館で観て正解だった。ビデオでは味わうことのできない臨場感を味わうこともできたよ(隣に坐ってるおじさんが関係ないところで大笑いしてたのがちょっと気になったくらい)。
…と、まあ、概ねは褒めるところばかりなのだが、やはりアラってものもあるわけで…特にタイムトラベルものの作品はどうしてもそれは出てきてしまう。個人的な話になるが、つい先日『サマータイムマシン・ブルース』(2005)という秀作設定作品を観た後だと、観てる間にもその辺は出てきてしまう。細かいところはいくつかある。けど、致命的な点がひとつ。
この作品には二人のタイムリープ者が出てくる。タイムリープには回数制限があるのだが(多分三人がこんなに仲良くなれたのは千昭が何度か過去を書き換えたのだろう。それで使える回数が少なくなっていたと思われる)、二人が交互に過去に行けば、タイムリープの回数が増えると言うのが本作の肝になっている訳だが(要は片方がタイムリープを使わなかった過去に行けば良いだけの話)、これは実は大きな落とし穴で、ラスト部分、千昭は「真琴がタイムリープを使えなかった」時間へ戻ることができたのだ。千昭はすでにタイムリープの種?がどこにあるのかを知っているし、それを回収するだけで、すべては「起こらなかった」過去へと書き換えるだけで事は終わっていたはず。真琴に忠告だけして、放っておく千昭の行動はあまりに馬鹿げて見えてしまう。
それに、どこまで過去に遡れるか?と考えると、真琴は手つかずの種を手にすることもできたのに、わざわざチャージが終わった瞬間の過去に戻っているのも、ちょっとした疑問。ほんの数秒前に戻って、種を手に千昭に会いに行った方が良くはないか?それにこの方法を使えば、そもそも種はいくつでも手元に置けるわけなんだが…
と、この辺を“劇中に”考えてしまったのが問題で、最後の最後まで完全に楽しめなかったのはやはり問題かと。褒めることの多い良作ではある。だが、後一歩で名作になり損ねた。
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