[コメント] ユナイテッド93(2006/仏=英=米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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興味のあるなしに関わらず、観るべき映画が登場した。実際、僕が鑑賞した回には、老若男女問わず、多く人が映画を観に来ていて、上映後はシーンとなっていた。非常に価値のある映画だ。
この映画を製作するにあたって、ポール・グリーングラス監督はユナイテッド93便で命を落とした方の遺族全員に会い、そこからすべてを出発させた。本当に真摯な姿勢で映画を作っていることがこの熱意によって伝わるが、映画の中身においてもすごく真摯に製作しているのがよくわかる。
まず、ほとんどの物語には存在する起承転結を排除した。最初から最後まで、同じテンションで、事実の再現を、手持ちカメラを利用したドキュメンタリータッチの映像で伝えていく。グリーングラス監督は、ベルリン映画祭グランプリ受賞作『ブラディ・サンデー』も徹底的に事実に迫るこの手法を使っていた。
リアルさの追求を本気で行えば、起承転結など用意しなくても、そこにいた人々の“リアルな気持ち”が映像を通して自然と伝わってくる。無名俳優の迫真の演技も、危機的状況の中の人間の思いを見事に感じさせてくれた。
さらに、感情移入の要素も排除しているのが見事。アメリカ側の視点に偏ることはしなかった。飛行機の乗組員にしろ、乗客にしろ、テロリストにしろ、すべてを人間として描いた。すべてを命を賭けた人間として…。正義と悪という単純な構図に収めなかったことは正解だったと思う。
事実を徹底的に再現する上で、妙な先入観や主観が混じると、それは事実の再現度を下げかねない。その点、この映画は意図が明確だった。出来る限り、事実に近い形で事件を再現し、そこから観客に何かを感じ取ってほしいという意図だ。映画のラストシーンも飛行機が墜落して終わりという唐突なものだが、それが映画の意図を象徴していると感じた。エンドクレジットでは、いろいろな想いが胸の中に渦巻いた…。
ただ、厳しく指摘すると、完璧な事実ではない。やはり推測だからであろう。例えば、確かに乗客の中にパイロット経験のある人や、元航空管制官の人も存在したが、彼らを使って何とかしよう行動は、少し作為を感じる。また、携帯電話を使っている乗客がいるが、これに関しても、電波状況を気にする仕草がひとつあるだけで、随分と違っていたように思える。
それでも、飛行機の中での行動は、確かにあり得ない推測ではない。熱心な取材を元に製作しただけのことはある。ここまで心を動かすリアルな再現ドラマを作れたこと。これには真の価値がある。テレビのニュースで衝撃を受けたあの9月11日を思い出しながら、是非より多くの人に観てほしいと思う。
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