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[コメント] トリノ、24時からの恋人たち(2004/伊)

バスター・キートンチャールズ・チャップリン等のフィルムに自らを挿み込むような生活を送る、どこかアキ・カウリスマキ風の青年。衒学的なシネフィル(映画狂)の厭味さなど微塵もない、愛すべき素朴な映画。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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これがもしフランス映画であったなら、映画のことしか頭に無いような青臭い若者たちが、頭でっかちな議論をやりあいながら乳繰り合うような鬱陶しい映画になりかねない気がするのだが(いや、決してフランス映画が嫌いなわけではないんですが)、いかにもイタリア映画らしい(と言うほど「○○映画」を知っている自信も無いんですが)温かみのあるコミカルでカラフルな映画に仕上がっていて、愉しんで観ることが出来た。赤と青を基調にした映像美も、目に実に美味。

「彼にとっての最新技術は、自転車と手回りカメラ」。ナレーションがそう語る(どちらも人力で回す器械だ)、内気な青年マルティーノが、祖父が釣りをする隣りでその手回しカメラを回す光景は、魚の代わりに風景を釣っているような、優雅な雰囲気が漂っている。この古式のカメラのレンズ越しに見える、少しぼやけたモノクロの情景は、まるで古い曖昧な記憶のように見える。

ナレーションは語る、「近頃のお客は登場人物の話しかしない。かつてガラスや魔法のランプで映していた頃は、登場人物などおらず、お客は街並みや風景に目を奪われていたものだ」。そうした素朴な映像観を甦らせようとするかのように、トリノの夜景が、実に美しく撮影されている。夜空に幻のように浮かぶ、電飾。アマンダが、同居人である女友達バルバラと歩く地面を照らす、光の模様。アンジェロがバルバラを旅行に誘う場面での、二人の間を流れる紅い光の小川(と呼ぶにも小さすぎるけど)。

日中の場面でも、アマンダが池の畔を歩く場面での、池に並んで映るアパート群や、彼女が宝くじを当てる場面での、ガソリン・スタンドの屋根で風を孕んで踊る布の人形など、面白いショットが幾つもある。

マルティーノの愛する映画もまた、銃や性的なものも無い、「リュミエール直系の」映画。そんな彼が、警備員として勤める映画資料館で映像を楽しんでいる真夜中、アンジェロは車を盗んでいる。このアンジェロが、物語に犯罪とセックスをもたらす。彼が撃たれる前に、自分に銃を向ける男に「俺か?」云々と口にする台詞は、たぶん『タクシー・ドライバー』でのデ・ニーロの名台詞の引用だろう。

既存の映画からの引用については、この作品の公式ホームページがまだ残っていて、そこの解説に色々と紹介されている。個人的にはアマンダのジーン・セバーグ風の髪型が気に入った。が、彼女の面立ちに一瞬、『裁かるゝジャンヌ』のファルコネッティを喚起されたりも。

(評価:★3)

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