[コメント] 父親たちの星条旗(2006/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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パノラミックな俯瞰の構図での戦闘シーンを撮らせれば、スピルバーグに一日の長がある。『プライベート・ライアン』のオマハ海岸シーンは映画史の枠を越え、「戦場を知らない」我々に戦争の怖さを見せ付けたものだ。
対するイーストウッドといえば、個を丁寧に描きこんでいく事でオスカーを勝ち得た監督である。個人的には『マディソン郡の橋』のメリル・ストリープの描き方が最高だと思っているんですが・・
そんな二人の夢のような合作。期待しない映画ファンはいないだろう。
そう、期待値は高かった。高すぎたのかも知れない。
テーマは鑑賞前から知っていた。「英雄に祀り上げられ、国策に利用された男たちの苦悩」単純だが根っこの深い人間ドラマが期待されるはずだった。そしてソレは作品の冒頭で披瀝される。問題はソレを如何に深く切り込んでいくかだろうに。だが、本作は戦場と本土での英雄シーンが頻繁に繰り返されるのだが、物語は一向に深まっていく気配はなかった。
繰り返される相互の設定において、何か新しい展開が起きて物語に起承転結が生まれるはずなのに、戦場のシーンでは壮絶な戦闘シーンが繰り返されるだけで映像的には興味を惹かれるが物語に進展はない。
そして本土での英雄たちのシーンでは退屈さに拍車がかかる。3人の英雄の誰かに照準を合わせるでもなく、欺瞞と困惑のエピソードの繰り返しがだらだらと続く。強いて言えばインディアン出身兵の自己崩壊の様が描かれているようだが、そんなテーマは冒頭のスタジアムでのシーンで既に全て語り終えているではないか。
結局、戦場の悲惨さを紹介したかったのか、それとも前述の欺瞞と困惑・苦悩を描きたかったのかさっぱり伝わってこない凡作に成り果てたと思う。「人間ドラマ」のイーストウッド印という期待値が高かった故の辛口に成らざるを得ないのです。
但し本作にも数少ない成果はありました。
1、「戦争を知っているという馬鹿な奴に限って戦場を知らない」
2、「この島をジャップは簡単には譲り渡さない。タラワ・グアム・テニアン・サイパンと違ってこの島はジャップにとって神聖な国土だからだ。」
まぁ、1の台詞はどこぞの映画でも聞かれそうな台詞ではありますが、2の台詞は新鮮でした。「神聖な国土」なんていう言葉は日本では滅多に使わないですからね。植民地ハワイへの真珠湾攻撃と9.11のNYテロ、双方の被害への微妙な温度差(本音)が垣間見えたような気がします。
PS、最後に水那岐さま、大切であるべきコメントに私のような者の名をあえて載せていただけるなんて、何てありがたく、そして畏れ多いことでしょう。
先日コメント投稿した『イノセント・ボイス 12歳の戦場』にて、自身の戦争観に一発ガツンとやられた直後だけに本作の上記の台詞、「戦争を知っているという馬鹿な奴に限って戦場を知らない」というのがやけに堪えます。
ありがとうございました。
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