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[コメント] 父親たちの星条旗(2006/米)

「誰が写真を撮ったかはどうでもいいではないか。あの写真は確かに私が撮った。だが、硫黄島を獲ったのは海兵隊員なのだ」
ナム太郎

…とはローゼンタールの言葉だが、私には誰が英雄かという議論よりも、誰がこの映画を撮ったか、それはイーストウッドであるということの方が重要であった。

近年の作品から、彼は比較的小さな範囲の中での個を描くことに長けた監督であると見られているようである。それに関しては、私も反論する思いはない。が、それだけしか描けないとまで言われると、正直反旗をひるがえしたくなるのも事実である。

確かに彼はストーリーテラー的映画監督ではない。いや、そのような側面から彼を語ると、むしろ非常に不親切な監督であると言えるのかもしれない。本作でもあれほど戦場の場面を描きながら、それを受ける現代の場面の浅さといったらないし、またそのことは、例えばドクの息子である作家の描き方ひとつをとってみても明らかである。

しかし、それらが彼の映画の本質を変えるような重要なことであるかというと、決してそんなことはないと私は思っている。数々の心躍るシーンから成る本作も、間違いなく彼でないと撮れない作品である。

先に述べたように、本作の構成力が弱いと感じる方は多いことだろう。しかしこのドラマは、ドクの息子によって作られたものであるはずだ。そして彼は肝心の彼の父親(ドク)から何かを聞いてこのドラマを書いたわけではない。少なくともこのドラマは、彼の父の友人が語った彼の父のドラマであるはずだ。そして彼自身が戦場を知っているわけでもないはずである。そして我々もあの戦場を知っているわけではない。そんな我々にあの戦場の何を語れようというのか。そしてそのような映画には、映画を成立させるために必要な最低限のものがあればいい。私にはそんなイーストウッドの思いが伝わってきた。

しかしまぁ、何はともあれ、本作もいつもの彼の作品と同様、役者を愛し、音楽を愛し、そして観客を愛し、総じては映画というものを心から愛しているという純粋な映画に対する思い。そういった思いがひしひしと伝わってきた素晴らしい傑作であった。中にはそんな抽象的な思いだけで最高点を献上するのかという批判もあるだろうが、私にはそれで十分なのだからご容赦されたい。

本作での好演によって、今までほとんど無名に近かったライアン・フィリップらの若手俳優たちは、スターという階段の頂上に星条旗を掲げるのかもしれない。すると彼らは言うのだろう「僕らが英雄なのではない。真の英雄はあの映画を撮ったイーストウッドだ」と。

そんな時の彼の言葉を聞いてみたいものだ。

(評価:★5)

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