映画における物語性というものに対し、不満を抱く人も多いことだろう。中には「ハンカチを握り締めていたのに、それを使うことがなくて残念！」なんて人もいるかもしれない。

この映画に対し、そういったものを求めていた人が肩透かしを食らったということは想像に難くない。しかし、そのような抑えた演出こそが、この映画に対し、映画的な多くのことを望むのではなく、ただ硫黄島という戦場に散った兵士たちの「愛する者への思い」だけを伝えたいとするイーストウッドの意図するところであったのだと思う。

自分が正しいと思う道を示すことが正義だとすれば、これはまさにイーストウッドが我々に示してくれた彼なりの正義である。この正義の思いを私は素直に受け取りたいと思うし、そんな彼に対し、万歳三唱とまではいかぬまでも、静かな感謝の思いを示すために日本軍の帽章ではないが★5を進呈したいと思うのだ。