[コメント] 若者たち(1968/日)
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90分で五人兄弟を活躍させる必要からか、ぎゅうぎゅう詰めの展開ではあるが、省略の妙がそこここに見られる。冒頭、数カットで夜から昼になり橋本功運転のトラックが鶏小屋に突撃するショット(見事な蛇行運転)はとても印象的で、これから全部この調子だぜとの予告になっているし、稼ぎの替わりに鶏を卓袱台に放り投げるギャグに無理なく繋げている。行商する夏圭子にばったり出会った橋本が次のカットでは自分の会社で彼女に行商させているという繋ぎも、ふたりの急接近を軽妙に語って巧い。だから詰め込みも気にならない。この編集の巧さがまず本作の美点。
宮島キャメラは流暢に工場街を記録しているが、山場を顔アップに求めるのはテレビ監督の性なんだろう。田中邦衛と山本圭のやたらアツい激論は想定通りという処で損しているが、度外れな大滝秀治の名演(いつも飄々としている彼のこれほど切迫した表出を初めて観た)を引き出したのもこの演出に違いない。一方、佐藤オリエ、松山省二、石立鉄男ら基本テレビ俳優たちの寡黙な佇まいはとても魅力的。石立見つけて泣く佐藤の窓越しのショットはとても美しい。こういう処を無言で処理するのが当たり前の手法だがいい。
テレビ打ち切りの原因になったコリアン・ジャパニーズへの言及があれば喝采ものだったが、フジテレビ社員の監督にそれを望むのは酷なんだろう。それでも原爆症について訥々語り、お札燃やしてしまう(犯罪です)山本圭はテレビサイズには収まり難かろう。独立プロ(新星)で撮った気骨が窺える。
栗原小巻の学費闘争敗北(4割増とある)から始まる金に細かい映画。ホンの白眉は小川真由美が田中邦衛を「私の計算尺が回り始めるのよ」なる長広舌でぐうの音も云わさず振る件。「そうならない世の中にするんだ」と本邦レフト代表の山本圭がお札燃やして叫ぶ68年作品。どのような答えを続編で山内久は用意しているのであらうかと期待高まる。
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