[コメント] ディパーテッド(2006/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
まず、俳優陣に全編魅せられた。レベルの高い役者の演技のぶつかり合い。これを観ているだけで2時間半楽しめるほどなのだから。
レオナルド・ディカプリオ。前作『アビエイター』と似たような演技をしている嫌いはあるが、潜入捜査による苦悩を迫力のある演技で表現していた。ディカプリオは、目と声が良い。悪事を働くにしても、苦悩で怒りを表に出すにしても、目と声がすごく生きる。映画の中で一番人間らしい男を、人間臭く演じていた。
マット・デイモン。基本的にエリートに見える風貌だが、どこか裏があるようにも見える。この実はものすごく冷酷な男を、ディカプリオとは対称の形で表現していた。静と動でいえば静側の役割を見事に果たしていた。
ジャック・ニコルソン。オープニングをニコルソンのナレーションとともに始めたのは正解だった。強烈なインパクトを与えて、映画に引き込んでしまうのだから。
マーク・ウォルバーグ。あまり強そうなイメージはないのだが、ここまで嫌な上司っぷりを演じられるとは! その対比としてラストシーンで見せた妬み深さは、本来彼が兼ね備えているものだろう。これも適役。
マーティン・シーンなども大きな役割を果たしていたが、メインロールを演じた4人がまさに適材適所。役者に惹かれて観に行く価値は、想像以上に高い。
さらに、ニューヨークではなくボストンが舞台だろうが、やはり監督の味が染みている、マーティン・スコセッシの映画であったことにも魅せられた。
警察に入り込んだマフィアのスパイ、マフィアに入り込んだ警察のスパイ、というサスペンスフルな設定であるが、実際、サスペンスとしての辻褄合わせなどとこの映画は無縁である。
サスペンス要素もあるが、そこは荒削りであり、あくまで見応えのある人間ドラマに重点が置かれているところが、非常にスコセッシの映画らしい。ストーリーの流れとしての魅力よりも、キャラクターの感情の移り変わりや会話などのシーンとしての魅力の方が強い。それをレベルの高い役者が肉付けしていくわけだから、そりゃ見応えが生まれるわけだ。
カトリックの要素や、ボストンという街を生かし、非常にアメリカ映画らしく仕上げているところも、やはりスコセッシというアメリカの暗部を描くところに長けるアメリカの監督が撮った映画らしくてすごく良い。冒頭から感じる雰囲気は『グッドフェローズ』を思い出させ、音楽もローリング・ストーンズなどアメリカのロックで固めている。
2度登場する屋上のシーンも、歴史的建造物と近代的なビルの2種類が並んで建つボストンの風景が、どこか歪な雰囲気を感じさせ、「信頼と裏切り」という表裏一体な作品の主題を匂わせる気もする。
ボストンという街が、北部は最高学府であるハーバードがあることからも学生街として治安が良いイメージが知られる一方、南部はこの映画で描かれるような治安の悪いスラムがあるという、裏と表が存在する街。出世の高みの象徴のように登場する金色のドームの州議会議事堂と、死体から血が流れる様子を対比したラストシーンにしても、アメリカの都市であるボストンという舞台をうまく使っていると感じた。
ラストシーンの直前で、「男を振り返らないで歩き去る女」という『第三の男』へのオマージュを入れていることも、シネフィルであるスコセッシらしく、あまりに話の流れに溶け込ませていたものだから、思わず唸ってしまうほどだ。
その他、暴力描写もそうだし、さまざまな視点で見て、まさにスコセッシらしい映画に思えた。
そして、この映画が、どこからどう見てもアメリカ映画でなければ出来なかった映画であり、どこからどう見ても人間ドラマとして突き詰められていたこと。これらをもって、今回こそはスコセッシが“アメリカ映画の巨匠”として、オスカーを手にすべきだと、僕は思う…。
※ ※ ※ ※ ※
一旦締めて、ここまであえて名前すら出さなかったオリジナルとの比較について。
『インファナル・アフェア』はサスペンス、『ディパーテッド』は人間ドラマ、という区分で考えると、設定が同じだけで全然違う映画だ。
それが前提だが、ただ、僕がどちらが好きかと聞かれれば、それは『ディパーテッド』。『インファナル・アフェア』は上映時間も短い分、人間描写をもっと掘ってほしいと感じたが、『ディパーテッド』では僕がやってほしいと感じていたべクトルにきっちり針が向いていたのだ。
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