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[コメント] ダーウィンの悪夢(2004/オーストリア=ベルギー=仏)

ヨーロッパへ魚を運ぶための輸送機は、ヨーロッパから何を運んでいたのか?
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







武器や弾薬を積んでいたというのが、本作の実態に即した答えである。

しかし、ナイルパーチにしろヨーロッパから来る輸送機にしろ、今のタンザニア社会の悪夢を映し出しているだけではなく、別の象徴的な意味が込められているように感じた。

水揚げされたナイルパーチの巨躯と死んだ目には、言い知れようのない不気味さを感じた。他の魚を食い荒らして、自分の住む湖の酸素濃度をも狂わせ、生命体の寄りつかない死の湖へのカウントダウンを引き起こしている。その存在自体が抑制の効かない消費社会を暗示している。

ヨーロッパから飛来する飛行機も、武器を積んできたのと同時に、物質的な貧困や精神的な貧困を積んできたようにも思える。ヨーロッパの銃とアフリカの資源を交換するその輸送機が轟音をたて湖すれすれに飛来してくるさまは、収穫を荒らしにきたイナゴの大群のようでもあり、『地獄の黙示録』でナパーム弾を落とすヘリコプター部隊をも思わせる。

子どもが少ない食料を奪い合うさまや腐った魚の残骸にうじが湧くシーンなど、あまりにも直接的な表現が多かったが、全体を通すと『ボウリング・フォー・コロンバイン』のようにフィクションを思わせる象徴的な場面が多かった。優れたフィクションは時代を映すドキュメンタリーになりうる。

*ナイルパーチの不買運動が一概に愚かとは思わない。ただ、豊食に恵まれた国で育った身の不謹慎な言い方かもしれないが、不買運動を起こす以前にあの魚の死んだ目と巨躯を思い出すと食べようとは思わなくなる。

(評価:★3)

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