友人の友人にわりと有名なボクシングの選手がいて、こんな話を聞いたことがある。

　本当に強いボクサーというのは、リングの上で常に冷静を保ちつつ、それまでに培ってきた技術や攻防のパターンをひとつひとつ明確な意思と意図を持って実行できるボクサーなんだそうだ。彼のいう「本当に強いボクサー」というのは、リングに上がる直前までは何だか飄々としていて、「こいつ、大丈夫か？」「もうちょっとピリピリしてた方がいいんじゃないか？」と散々に周囲の人間を心配させるんだそうだ。だが、彼らはひとたびリングに上がれば、残酷なほど徹底的に相手を打ち倒してしまう。実は彼らのような選手ほど強く「相手を打ち倒したい」と熱望しているというわけである。真の「戦う者」とはそういうものらしい。

　この映画を見て、そんな話を思い出した。周防監督はまちがいなく戦っていた。