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[コメント] 魂萌え!(2006/日)

真にターニングポイントとなるべき場面で、捨て切れなかった「甘え」。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 大まかに言えば、夫を失った未亡人が社会との新たな関わり方を模索する筋立ての映画。その物語の中で女の魂の移ろいを描くエピソードはリアルだし見応えがあったのだけれど、「映写技師になりました」をハッピーエンドとして設定するなら物語の中でもっとも高いハードルは「映写技師になること」であるべきだと思うんです。現に彼女は最初に映写室を訪れたときに「世界は急に味方してくれないね」みたいなことを言ってるし。

 そのわりに、ピンク映画の師匠のところに酒に酔った勢いで押しかけるというのはどうなんだろうか、という違和感が残ったんです。で、あっさり教えてくれちゃうのはどうなんだろう。都合がよすぎやしないだろうかと。

 そりゃ、還暦の女の人がピンク映画館に乗り込むのはすごく勇気のいることなのだろうけれど、そんなのはこの人の勝手な都合であって、社会のルールからしたらたいへんに非常識な行為だと思うんです。怒鳴りつけられたっておかしくない。ところが、ピンク師匠は広い心で受け入れてしまった。主人公の言葉を借りれば「世界が急に彼女に味方して」しまった。物語がこの「社会的に非常識な行為」に対して同情的な許し方をしてしまったので、彼女の決意や再生がにわかにリアリティを失し、軽くなってしまったように思うのです。

 身内や行きずりの人たちは冷たかったり無責任だったりするのに、真に彼女にとって荒波の大海であるはずの社会は大甘だったという物語のアンバランスが気にかかり、役者や演出の出来の好さのわりに迫るものがなかったと感じました。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)寒山拾得[*]

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