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[コメント] 魂萌え!(2006/日)

これは別バージョンの『』であり、『ぼくんち』のサブストーリーだ。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







私の中で1、2を争う「好きだけど信用できないブランド」阪本順治(ちなみに1、2を争うもう一人は黒沢清ね)の、『』以来の女性映画。

「新たな一歩を踏み出す女性」を描いていることが『』との共通点だろう。 それもNHK朝の連続テレビ小説的な「目標に向かってまっしぐら」の“直線的行動”ではない。右往左往しながら一歩踏み出す女性だ。むしろ自分探しに近いと言ってもいい。

こうなった時の阪本順治は不思議と適正な距離感を有する。 元々主人公に過度な感情移入をさせない演出なのだが、女性主人公となると殊更、冷たすぎずベタベタせず、カラリとドライに主人公を包み込む。 この映画や『』の主人公に、悲壮感や同情ではなく、素直に応援したくなるドライな明るさが宿っているのはそうしたバランス感覚にあるような気がする(もちろん役者の力量もあるが)。

また、この映画で主人公を取り巻く人々の多くが、事業に失敗したりなんだり「人生負け組」に属している点にも注目したい。 どうやら阪本順治は、『アビエイター』的な成功者の物語には興味がなく、「這い上がる男達」がお好みのようなのだ。 (残念ながら『亡国のイージス』にはそれが欠如していたのだろう)。

そう考えるとこの映画、「周囲に手を差し伸べる女神の物語」と見ることもできる。 これは『ぼくんち』に通じるものがある。 ただ大きな違いは、「女神としての存在」と「成長物語」が不可分のものとして扱われている所にある。

電車で窓外を見つめる風吹ジュンの表情は、なんと圧巻なことか!

最初の対峙の際、不似合いなルージュをひいた風吹ジュンに対してペディキュアを綺麗に塗った三田佳子が圧倒的に優勢に立っていた。 だが、成長後の風吹ジュンは装飾ではない美しさを纏って三田佳子の前に立ちはだかる。今度は三田佳子がうろたえる番だ。 よくできた描写だ。

まだ2作しかないので確実なことは言えないが、阪本順治の女性映画は悪くない。信用していいブランドかもしれない。 ま、『ひまわり』はやりすぎだと思うけどね。

余談

公開2日目の日曜日の午後一番新宿という最も混んでいていい状況の映画館がスカスカ。 この由々しき問題を我が家の夫婦間で緊急協議した結果、以下の結論が導き出された。 「このストーリー、このキャストで、仮に滝田洋二郎が監督だったら観に行っただろうか?」 答えはNOだ。やはり地味すぎるのか。 『亡国のイージス』の失敗(あれは失敗と言っていいと思う)に続き、このままでは阪本順治は商業映画監督としてダメになってしまう。

(評価:★4)

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