コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] タイム・オブ・ザ・ウルフ(2003/仏=オーストリア=独)

映画は現代のキリスト教だ、人は日曜に教会の代わりに映画館へ行き、受難や奇跡や愛を学ぶ(岡田温司)。本作は受難9割9分、1分を残す匙加減はハケネの真骨頂。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この受難には理由というものがなく、ハリウッド的な難題とその解決という通俗を回避している。難民たちは汽車を待つ。汽車を救済に準えるのは(多分ゴスペル出自の)キリスト教のものである(タルコフスキー『ストーカー』が漠然と想起される)。羊や馬の屠殺も追いはぎも同様。

展開されるのは「災害ユートピア」とは真逆の状況であり、状況が把握できなければこうなる他はないというリアルが蔓延している。やたら仕切るオリヴィエ・グルメ他、さも有りなんの世界。ハケネはここでも外国人へのしわ寄せを語る。ポーランド人がそうだし、ニット帽の少年は『71フラグメンツ』の難民少年の自己引用だろう。冒頭でイザベル・ユペールの亭主を射殺した一家との再遭遇というシリアスな件が解決なしに放り出されるのも効いている。

1分の奇跡は、「正義」なる信者組織の自己犠牲の噂話を信じた息子の焼身自殺の試みに篭められた。この解決は呆気に取られる類のもので、こんなことはあり得ないと反語的に語っていると取るのが普通だと思うが、信心によって違う感想を許容する作りであるのは間違いない。ただ車窓の風景を延々撮っているだけのラストショットが複雑な感想を引き起こす。モンタージュ理論の達成のひとつだだろう。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。