[コメント] ラストキング・オブ・スコットランド(2006/英)
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フォレスト・ウィティカーがアカデミー主演男優賞を獲得した本作だが、主演俳優の怪演だけがとにかく際立ってしまう作品ではないか、という僕の予想はあながち外れてはいなかった。もちろん、悪い映画では全然ないのだけれども。
ウガンダの独裁者・アミンを演じたウィティカーは、強烈なインパクトを誇る。彼の初登場シーンとなる演説のシーンは、溜めて、溜めて、ついに出てきた!、というような期待を煽る登場。そこで「ウガンダ、万歳!」と人民のために尽くすという熱い語りを笑顔で披露するのだから、のちの展開を考えると不気味な登場であった。 その後も、ウィティカーの演技は圧倒的なほどな威圧感を持って画面を支配していた。
30万のウガンダ国民を殺害する独裁者であったアミン。しかし彼は、裏を返すと貧しい生まれで、ウガンダを思ってこそ大統領になった人物。だが、反発する勢力からの脅迫を恐れるあまり、強硬な政策へと走ることになり、完全に迷走し、回りが見えない状態にまでなってしまう。アミンが抱える思いは、ウィティカーの鬼気迫る演技により伝わる部分は大きいのだが、物語や演出がそれをカバーしていないのが残念なのだ。
映画の中心には常にアミンがいるのに、主人公はアミンの主治医であるスコットランド人のニコラス(ジェームズ・マカヴォイ)。どちらの人物を突き詰めて描きたいのか。……おそらく、ニコラスなのだが、そうだとすればアミンが目立ちすぎてしまった。これは、『ラスト・サムライ』における渡辺謙や『ギャング・オブ・ニューヨーク』におけるダニエル・デイ・ルイスの存在にも言えることだが、主体となる人物以外が過度に目立ちすぎると、映画としての焦点はぼけてしまう。本作の場合だと、前述したようなアミンの精神の歪みなどの方が、突き詰めて知りたいと感じてしまうからだ。ニコラスのようなキャラクターは、小説ならば「語り手」で済むのではあるが。
本作がウィティカーの恐怖に満ちた演技や、皮膚を引っ張って天井から吊るすという残忍極まりない拷問の描写によって、大虐殺を行った悪名高き「人食い大統領」という人類の悪しき歴史を描いた作品としての意味は大いにあるし、前述したとおり全然悪い映画ではない。ただ、「極悪人がいた」と世の人に知らしめること以上の意味合いが薄いのも確か。過去は描きつつも、現在の情勢にも通じるような普遍性がほしいところ。平和を願う痛切さに欠ける。その点、本作の監督ケヴィン・マクドナルドの前作『運命を分けたザイル』の方が、リアルに迫る痛切さが感じられる作品だった。
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