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[コメント] ラストキング・オブ・スコットランド(2006/英)

「黒いジャイアン」とも呼ぶべき強引さと人懐っこさを兼ね備えたアミンの魅力爆発。フォレスト・ウィティカーの演技をもっともっと観ていたいと思える。主人公がお調子者の白人のボンボンという、まるで共感を呼ばない人物だというのもあるが。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







アミンが凶暴化していくのは、一種の繊細さによるものだ。彼が主人公ニコラスと出逢う場面では、アミンは牛に追突されて「骨が折れた!」と大騒ぎしている。だが実際は捻挫した程度。その巨体に似合わず、どこか神経質な子供のようなデリケートさが漂う。

だが、この繊細さは、彼の鋭敏さの半面でもある。この一件でニコラスを気に入ったアミンは、彼を主治医にスカウトするが、その際、躊躇するニコラスの様子を見たアミンは、「こないだ一緒だった女が気になるんだな?」と図星をつき、更には彼女が人妻である事も素早く言い当てる。この頭の回転の速さが、自らの身が脅かされる事への恐怖と結びつくと、疑心暗鬼へと至る訳だ。

アミンは、物語が進むにつれてその猜疑心を酷くしていくが、少なくともニコラスについては一つも間違いを犯していない。ニコラスが自分の妻を寝取った事や、現実感覚の無い遊び気分でウガンダにやって来た事。アミンの指摘は、共に真実だった。ニコラスがアミンに恐怖を抱き始めるのは、保健大臣を粛清した事を知ったのが切っ掛けになるのだが、そもそも、大臣を誤解し怪しんだのはニコラスなのだ。アミンはその疑念と不安に感染させられて、即処断したのだ。

その前段としてニコラスは、アミンから贈られた高級車に共に乗って走っていると、前を行く大統領車が襲撃を受けて、アミンと共に銃弾の雨の中を逃げ回り、彼と身の危険を共有している。「何かを変えたい」という無目的な自分探しでウガンダにやって来て、革命家アミンに魅入られたニコラスは、この衝撃的な出来事で、アミンの分身、人々の陰口通りの「白い猿」として、アミンの戯画、猿マネ男と化したと言える。

この題名そのものに皮肉がある。ニコラスは最初、イギリス人外交官に対し、スコットランド人としての反発心を顕わにするが、いざ身の危険を感じ始めると、急に卑屈になって助けを求め、「イギリス人としての人権がある」などと主張する。一方のアミンは、元は軍でイギリス人にこき使われていたが、遂にはそのイギリスの支援を受けて革命政権を樹立する。抑圧される者と、力を持つ者、両面を備えている。そのアミンに「スコットランド人は勇敢だ」と煽てられていたニコラスは、アミンの魅力と恐怖の間で右往左往し、常に虎の威を借りようとする狐の役を演じている。

この映画は、ニコラスという詰らない小人を通して、権力の両義性と悲喜劇性を描いている。その意味では、まるで共感を呼ばない彼の出番がアミンより多いのも必然ではある。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)DSCH[*] CRIMSON[*]

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