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[コメント] ブラッド・ダイヤモンド(2006/米)

“紛争ダイヤ”に絡めた問題提起。映画によって多くの人に訴えるためのわかりやすい展開・構成になっているが、複雑な問題ゆえに、こんなにきれいにまとまってしまっては、むしろ嘘くさく感じてしまう…。(2007.04.08.)
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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ホテル・ルワンダ』『ナイロビの蜂』『ラストキング・オブ・スコットランド』など、最近アフリカを舞台にした映画が多いのは、続編やリメイクに題材を求めている現状で、先進国の人間が知らない第三世界には、先進国の人間も知るべき問題が溢れているからか。

この『ブラッド・ダイヤモンド』で扱われた“紛争ダイヤ”という題材も非常に興味深い。貧困、紛争、難民、加えて資本主義が生む歪みが、すべて含まれている問題なのだから。中東における石油のように、シエラレオネではダイヤに利権争いや紛争の理由が見え隠れする。これを、この映画は緊迫感のある映像によって、この問題を初めてここで知る観客に向けてもわかりやすく描き、きちんと問題提起している。これは評価すべき点だ。

ただ、エドワード・ズウィック監督の映画全体に言えることだが、興味深い題材をわかりやすく描き、本当にまとまった出来になっているため、終盤が非常にありきたりになり、物事を美化している印象を与えてしまうのが残念だ。ズウィックの前作『ラスト・サムライ』はそれが顕著だったと思うのだが、武士道をあまりに美化しすぎてしまったため、逆に見方によってはそれが新興宗教かのようにも見えてしまった。

この『ブラッド・ダイヤモンド』でも、終盤を手堅くまとめすぎている分、驚きや衝撃を与えてくれなかった。レオナルド・ディカプリオ演じる主人公は、紛争ダイヤを密輸しようという考えが先行している悪人だが、最終的には清き心を見せて殺されるだろう、ということ。ジャイモン・ハンスゥ演じる黒人漁師は、ゲリラ組織に誘拐されて少年兵となった彼の息子に殺されることはないだろう、ということ。

悪人が悪人のまま終わったり、悲劇的すぎる最期を迎えさせたり、そういう観客に痛みを与えることは絶対しないだろう、ということがすぐに予想できてしまうのだ。ストーリーとしてはまとまりが生まれ、筋も通っているように感じるのだが、紛争ダイヤというように題材がシリアスかつ、実際に問題になっているものだけに、まとまればまとまるほど、踏み込めていない印象に思えてしまうのだ。理想を語って現実を見ない、とでも言えば良いのだろうか…。

問題提起として、中盤までは作り込まれていてとても良い出来だった。ディカプリオも悪人としての雰囲気が感じられる結構なキレ役であり、『ディパーテッド』と並び良い演技をしていた。ただ、最終的にはもっと不条理な部分を突きつけてほしいのだ。これでは、あまりにきれいすぎる。

「シエラレオネは平和になった」という言葉が最後に出てくるが、内戦は終結したとは言え、本当に「平和」なのでしょうか。首都・フリータウンにも若年層の失業者が溢れているそうです。武装解除された元RUF兵士が安定した職を得るには至っていないようです。難民の問題にしても、世界規模で解決されない問題です。映画の結末で、安易に「平和になった」と言ってしまうところ。それが、この映画の甘さではないでしょうか。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (11 人)Orpheus cubase[*] けにろん[*] JKF[*] G31[*] ごう[*] プロデューサーX[*] 林田乃丞[*] 狸の尻尾[*] ざいあす[*] じょばんに

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