[コメント] ゾディアック(2007/米)
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こりゃあ一般受けはしねーだろうな、というのが正直な印象。
少なくとも『セブン』『ファイトクラブ』あたりのデヴィッド・フィンチャーを期待している人には、まったく期待はずれの作品だと思う。
約3時間の長尺作品だから、ノンフィクションが好きか嫌いかで「中だるみせずに見ることができた」派と「ダラダラなげーよ、おい」派にわかれそうだ。
んで、ストーリーはゾディアック事件を時系列で追ったノンフィクション。 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BE%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%83%E3%82%AF_%28%E9%80%A3%E7%B6%9A%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E7%8A%AF%29 ↑ゾディアック事件ってのはこれ。
簡単に説明すると「ゾディアック事件」とは米史上初の劇場型犯罪で、日本でいう神戸の少年Aこと「酒鬼薔薇聖斗事件」みたいなもん。
このゾディアックを名乗るシリアルキラーの正体を突き止めようと、何かに取りつかれたように取材するマスコミ、そして捜査する警察たち。
しかし、ゾディアックは捕まらない。
時の流れとともに、ゾディアックは大衆から忘れ去られていき、ゾディアック事件にはニュースとしての価値がなくなっていく。
ある者はゾディアックの現場から去り、ある者はゾディアック事件を忘れようとし、ある者はそれでもゾディアックを追い続ける。
そして言及される犯人とは……。
と、まあ、そんな感じ。
何が良いかって、とにかくロバート・ダウニーJrがクソかっこ良い。
ロバートは新聞記者役。ゾディアック事件のスクープを書きまくって時代の寵児となるものの、ゾディアック事件の風化とともに、表舞台から去っていくという役柄だ。
これ、媒体で仕事している人間なら、誰もが似たような経験があるのではなかろうか。「俺いますげーこと書いてる。これ誰も書いたことがねえええ!!!!」みたいな。
不思議なもので、そーゆーときって、素面でスーパーマンというか、ちょ→万能感なわけです。勘違いの力は恐ろしく、素面で怖い物なんてなくなってしまう。
しかし、そーゆー勘違い無敵モードは長くは続かず、おまけにその反動はすさまじく、心の弱い人はお酒とかお薬とかに走って、最後は死んでしまう人もいる。
燃え尽き症候群だ、とか言われたら、それまでなんだけど。
ロバート・ダウニーJrはプライベートで本当にアル中だったんだそうだ。どーりでやたらリアルな演技だと思った。あの廃人っぷりはわかるやつにはわかるだろ。
そして、脱落したロバートを尻目に、後年、主人公は「ゾディアック」のペーパー・バックを出版する。その後、彼は何をモチベーションに生きたのだろう?
めちゃくちゃ気になる。かくいう自分も同じようなことがあったから。そんで自分もロバートみたいになったから。その後、普通のリーマンになったから。
キャッチに「ゾディアックに取りつかれる」みたいなことが書いてあった。
「ゾディアックに取りつかれる」のは、ある意味ではすっげええ幸せなことだと思う。そんな経験は滅多にできない。でも、たぶん、それは経験してはいけないこと。
そこまで特殊なステージに上がれると言うことは、一生に一度あるかないかのことだから。一生に一度しかできないことを経験してしまったら、残りの人生は地獄だ。
「ゾディアックに取りつかれる」ことで、関係者は人生でもっとも充足した時間を得る。その対価として、その後、おまけの人生を過ごさなくてはならないのだ。
なかにはコンスタントにヒット作を連発できるジャーナリストとかマンガ家もいるんだけれど、そういう人たちは「天才」の領域で語られる人たち。
一般人ベースな人たちがゾディアックに取りつかれて人生を狂わせられていく。
大半はその経験を「なかったこと」にして、日常に戻ろうとする。でも、その人生を狂わせられた人たちは、ゾディアック事件を思い出すとき、きっとカタルシスを得ている。カタルシスの対象がシリアルキラーという皮肉。
でも、主人公もロバートも刑事も死ぬ前の一瞬に思い出すのはゾディアック事件のことだろう。それほどまでに濃密な瞬間だったのではないだろうかと予想する。
文句なしに★を5個あげよう。
すべての関係者に乾杯だ!
2007/6/17
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