なぜとらえどころがないかというと、ジャンル論的には「猟奇サスペンスかと思えば推理ミステリになり、というかそれ以前に人間ドラマ（妙な言葉ですね、これ）でもあるし、またノワールないしハードボイルドの雰囲気も持っているから」ということになるし、物語に即して云えば「次々と（というほどでもないが）主人公が交替し、そうした主人公たちが事件の捜査にのめり込んで破滅していく話かと思うとそういうわけでもなく、肝心の事件も解決したと云えばしたししていないと云えばしていない、といった按配になっているから」だが、もっと端的に云えば、このとらえどころのなさとは、初めっから終わりまで私たちの目の前に晒されていた、湿度を欠き、いやにつるっとした質感を持ったあの画面そのものなのだ。

ファースト・シークェンスあたりは（スローモーションを除けば）とてもよい雰囲気で次の展開に期待を持たせる出来になっているし、なにより主演のジェイク・ギレンホール、マーク・ラファロ、ロバート・ダウニーJr.のキャラクタが滅法魅力的で、彼らの演技を見ているだけでも間が持つ。銃の発射音なんかもすごくよかった、ような気がする。