[コメント] 戦争と平和(1956/米=伊)
映画を見終った人むけのレビューです。
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ロシアの文豪トルストイの代表作とも言える作品。且つ壮大なスケールで描かれる仏露戦争と、その中で行われる恋愛劇。原作の方は私のベスト・ブックの一冊(昔「無人島に一冊だけ本を持っていけるとしたら何にする?」と質問された時に迷わずに本作を選んだ)。
あまりにも有名な作品なだけでなく、ストーリー展開の素晴らしさや壮大な戦争のイメージなど、(同じトルストイ原作の『アンナ・カレニーナ』と共に)映画監督だったら一度は挑戦してみたい作品だったと思われる。
ただしこれは過去形での話。原作はこれまで二度映画化されている。一度目は本作、ハリウッドの大作として。二度目はソ連の“超”大作として。この二作を超えるスケールを作るのは多分もう無理で、(いや、今はCGを使って作れるかも知れないな)。この2作以外もう作られることは無かろう。それだけ原作が壮大すぎる。
この原作を映画化するのは歴史的偉業と言っても良い位。実際、それまで多くの製作者や監督(ジンネマンも)この作品の制作を企画していたが、ヴィダー監督がスタートさせると皆手を引いたと伝えられる。そしてヴィダー監督は本作を作るために10年近い準備期間と2年に及ぶ撮影期間を必要としたし、監督がプロデューサーともめたり、脚本に7人が参加する(その中にはアーウィン=ショーも入っているが、リライトの仕方が酷いと抗議し、クレジットから名前を外させる)など、不利な条件が重なりつつも完成させ、1956年全米興行成績は7位。当時はかなり評価された作品だ。
それで出来はどうだったか、と言われると、ちょっと評するのが難しい。確かに壮大な物語だし(撮影はローマで。600万ドル以上の費用をかけ、数千人のイタリア兵をエキストラに起用)、ヘンリー=フォンダ、オードリー=ヘプバーンと言った超一流の俳優を配した大作には違いないのだが、何せあれだけのボリュームを持つ原作だ。この程度の時間に押し込めるのは無理があった。それでもそつなくまとまっているので原作を知らない人にとっては原作の入門編として観られるが(戦闘シーンなんかはちょっと変な描写になってるけど)、原作にはまった人間にとっては原作のダイジェスト版としか見ることが出来ない。
それとキャラクターに関しては多分に文句あり。ナターシャ役のヘップバーンはともかく、ピエールになんでフォンダを使う?思いっ切り違和感を醸してたぞ。個性派俳優と言うだけあって、この人は意志の強いキャラクターが似合うのに、こんな優柔不断なキャラを演らせるなよ。いや、演技そのものは上手いんだけど、どうにも「フォンダは強い」というイメージが素直に観ることを阻害する。それにファラー(実生活ではヘップバーンの夫でもある)演じるアンドレイの影の薄いことと言ったら無い。最も格好良く撮れるはずの人間を脇役に押しやるとはなんたる撮り方や。
更に、本作の後発としてソ連製の『戦争と平和』(1965)があるのだが、私はそっちの方を先に観てしまった。国家予算を用いることにより史上最大の桁違いの予算で作られた作品を先に観てしまった以上、さしものハリウッド大作も、演出の派手さが感じられなくなってしまった。この映画単体で観る分にはハリウッド大作として評価できるのだが…
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