[コメント] 怪談(2007/日)
新吉は女たちの中心にある台風の目として描かれており、彼が「決意」或いは「心変わり」する瞬間の具体的アクションは映されることがない。代わりに黒木瞳や井上真央ら女優陣の反応、心の動き、そういった女たちの視点で映画は展開されていく。
であるからして、女たちの話として最後まで通せばまだ面白くなりようもあるのだが、何故か終盤いきなり新吉を前面に押し出して嘆かせ、狂わせる。これは視点が跳躍していておかしい。
そうなってくるといくら怪奇演出でカバーしても大して盛り上がらんのですよ。新吉が空を見上げて「まだ苦しめるのか」などとのたまうが、この映画はそれまでの過程で新吉が苦しんだり恨みを消そうという具体アクションを挿入せず、その代わりに新吉の周りの女たちの視点ばかりを描いていたからだ。これは根本的な視点設計のミスではないか。感情移入などというレベルの話ではない、新吉が空を見上げて嘆く場面は映画的にも美味しいシーンのはずで、悲愴感なりやけくそ気味の感情なり何なりが迸っていてもおかしくないのだが、ここには何も無い。それまで描かれなかった新吉の視点がここでいきなり現れるからだ。
ハリウッド流のどっきり演出とJホラー的湿り気、それと時代劇の3つを合わせて一定の成果を挙げているとは思う。美術・照明も最上ではないが健闘している。しかし根本的に「柱」になるはずの部分が抜け落ちたままじゃないか、この映画。中田秀夫は本作で妥協することを覚えてしまったか。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。