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[コメント] 包帯クラブ(2007/日)

革命!包帯とは連帯である!
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







病院の屋上でワラ(石原さとみ)が遠くに見つめていた、デパートの屋上の、巨大なバルーンのクマ。彼女がそこで出会ったディノ(柳楽優弥)が柵に包帯を巻いた時、バルーンの内側で遊ぶ子供の映像が一瞬、挿入される。それはワラの思い出の情景であり、つまりバルーンの内側は、ワラの心の内側でもある。表面的な表情や言動からは隠されていた、心の裏。この物語の中で包帯は、単に傷を覆い隠すものではなく、むしろ傷を誰かと共有する媒介として機能する。

それが最も端的に表れていたのが、終盤での、ワラとディノが包帯で二人三脚をする場面だ。それまでは「場所」に巻かれていた包帯が、本来の用途に返るように、体に巻かれる。だが、二人の人間の足を巻く、という、これもまた象徴的な使用法。何か出来る事はないか、とワラに問われ、セックスさせてくれ、と冗談めかせて言っていたディノ。紋切り型のお約束に従うならば、恋愛関係になっても不思議はないくらいに絡む場面の多い二人だが、敢えてそこは避け、包帯で体を共有し合う、という、他人同士としての距離を保ちながらの精神的な繋がりを描いたのは、この物語の主題からすれば正解だろう。

この後、一人でツッコミ(小野賢章)の家に向かうディノ。彼が恐る恐る入ったツッコミの部屋の暗さは、ディノの不安を投影したかのよう。だが、開け放たれた窓で風に揺れるカーテンは、ディノが、ワラの友達の自殺を防ごうとビルの屋上に巻きつけた夥しい数の包帯が、風にそよいでいた光景を思い起こさせる。ラスト・ショットでも、異国で棒きれに巻かれた包帯が風になびく光景が見えた。この映画に於ける「風」は、ディノが最初の包帯を巻いた時からずっと、巻かれた包帯が頼りなく揺れる姿と同時に、その場の空気を包み込もうとする、儀式、メタファーとしての包帯の詩的な意味を明らかにしていた。

風が最も吹き抜ける場所、つまり「屋上」は、無数の傷が残された街を見下ろす、天上的な場所として特権化している。風も、屋上も、どこか遠い場所を意識する為の媒体であり、その意味では包帯と相補的な関係を結んでいたと言える。

遠い場所、という意味では、ワラたちが過去に行なっていた方言サークルや、ディノがツッコミの真似をして使う関西弁もそうだ。長い時間を経てのディノの訪問を受けたツッコミが、ディノの関西弁について「一年経っても進歩の無いやっちゃ」と突っ込みを入れる台詞は、一年、という時間を隔てていようとも、二人の関係は何ら変わっていないという事を言外に告げる、良い台詞だった。関西出である僕としては、柳楽の関西弁には最初の内は違和感がありすぎたのだけど、その設定が明らかになった後は、これほど心地好い「下手な関西弁」もなかなか無いな、と感じ入らされた。

堤幸彦監督の演出は、ワラが崖を駆け降りる場面などでの、素早いカット割りによるマンガ的な演出が目立ちがちだけど、その一方、例えばワラが仲間と一緒にテンポ(関めぐみ)の家を訪ねた時の、タンシオ(貫地谷しほり)が紅茶に次々と砂糖を放り込むショットと、テンポが音高くカップを置くショットで、その性格や感情を簡潔かつ過不足なく示す、といった、瞬間的な描写力もまた評価したい所。

それに、インターネットを、それ自体は善としても悪としても描かず、一つの環境として扱っているのが良い。テンポを救おうと奔走するシークェンスでの感動は、画像付き携帯メールという道具無しでは成り立たないものであり、僕ら以下の世代がその生活環境をどのように「我らのもの」にしていくのか、を上手く視覚化していたと思う。

そしてエンドロールでの、世界各地に包帯が巻かれた映像。ここで、「行動を映像で示す」という点に於いて、映画とネットが一致する。そしてまた、「包帯を巻く」事は「映像を撮る」事と一緒になって初めて意味があったのだ、と再確認させられ、映像もまた一つの包帯のようなものなのだとも感じる。実際、ディノらはただ包帯を巻けば済むと考えていた訳ではなく、依頼者の思いを酌んだ画像を作ろうと試行錯誤していた。包帯クラブのサイトに掲げられた「巻きます 効きます 人によります」の最後の言葉は、単なるジョークではなく、他者との距離感に対する繊細さの表れでもあっただろう。

ハンバートハンバートによる音楽も、劇伴としての地味さを保ちながらも、柔らかくハミングする声の優しい感触と、弦楽器のノイジーで不安な響きが、映画の本質的な主題性、雰囲気を、シンプルな旋律と音色で十二分に語っていて見事。

(評価:★4)

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