[コメント] さらば、ベルリン(2006/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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観終わってまず感じてしまうのが、「きっと、これは時間をかけて原作読んだ方が面白いのだろうな」ということ。2時間の尺に収めるには物語が複雑すぎた印象が残る。それはどんなに40年代風な雰囲気を再現しようと、どうこうできる問題ではない。冷戦という題材だからゆえなのだが、どこに向かって物語が進んでいるのか、それが定まっていなかった。
本来、役者は三つ巴になるべきなのだが、早々とトビー・マグワイアは殺害されて姿を消す。その分、どこに焦点を合わせるべきがぼやける。人間ドラマとして観られなくなり、状況だけを追い続けなければならなくなる。そこに人間がなくして、状況についていくことは極めて難しいのだ。
結局、ケイト・ブランシェットがファム・ファタールであるということを感じさせるのは、彼女自身が演技から放つ雰囲気のみであり、プロットがそれを示してくるわけではない。だから、種明かしがされても、衝撃的には感じられない。
終戦してもなお身を守るために危険を冒さなければならない恐ろしさ。そして、次なる戦争へ目が向けられ、それに備えるために科学技術の入手に躍起になる様。戦争が生み影を描くという意味で、冷戦という題材は面白いのだが、その分、残念な映画だった。
ただ、徹底的にこだわった古典映画の再現という技術的な部分、これは素晴らしかった。映像に関してはとことん追求していくソダーバーグだからこその野心が感じられる。
モノクロによる陰影にしろ、台詞回しにしろ、カメラアングルにしろ、音楽にしろ、ここまでやるかというレベル。螺旋階段がスクリーンに登場すれば『第三の男』を彷彿するし、ラストシーンで飛行場が登場すれば『カサブランカ』を彷彿する。それぐらい、クラシック映画にテイストが近い。
それが、映画全体の内容には、大きく影響してこなかったのがとにかく残念だ。一部の意地悪な観客に「作家の自己満足だ」と言われても、それも一理あると言わざるを得ないのだから。
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