[コメント] 消えた中隊(1955/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
満州のソ連国境の開拓地、175名に兵士31名。英国人牧師の運営する教会が精神的支柱で、日本軍はでしゃばらず、日本兵は中国人少年と野球に興じ、満州人と結婚の約束をした兵もおり、みんなこれが八紘一宇だとみんな思っている。
こんなことは現地ではあり得ないだろう。中国人は日本兵に、長谷川四郎の「張徳義」のように苦力として扱われただろう。たまたま見かけたノモンハン従軍平の当時の回想記にこうある。「当時私たちは、中国人が困っているとか、怒っているなんて全く考えなかった。土地を好きに奪って使うのは、それほど当たり前のことだと思っていたんです」
このようにあり得ない、想像された占領地でしかないのだが、想像、理想化としてならこの導入はすこぶる面白い。外部からやってきた辰巳柳太郎の大尉はとんでもないと批判するのだが、この葛藤と大尉の敗退に映画が終わればすごいものだっただろう。そのためにはどういう道程を辿るのか見てみたかった。
この期待は見事に外される。対ソ開戦のハッタリもみ消して村全滅というトンデモ展開、史実ではない。どうせなら、さもありなんという細部があってほしいのだが、どうにもうまくいっていない。
野球のボールが国境の川に転がり落ち、ソ連からの発砲、の件は緊張感がありとてもいい。しかし後がまるで続かない。子供助けた兵が何で軍律違反なのかよく判らないし、前振りの理想の共同村落という主題はまるで機能せず、土壇場になって牧師に何か語らせようとしているが唐突で無茶。島崎雪子のロマンス(慰安所は日本女性しかいないよう)に至ってはひどいもので、サクラソウの鉢の小物遣いなど軽薄にしか見えなかった。あと河村憲一郎の中尉がビンタを喰らわす描写は、体罰肯定のクロサワ世代のもので厭になる。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。