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[コメント] 28週後...(2007/英=スペイン)

揺れ動き、疾走し、闇に脅える主観ショット。広大な空間の上を滑走する俯瞰ショット。素早いカット割り。この動的でリズミカルな空間演出と、思い切りのいい暴力描写。感染という要素によって、死にゆく感染者から飛び散る血飛沫もそれ自体が暴力となる。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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危険地帯に足を踏み入れる子供たちや、危険地帯から運ばれた妻が隔離されている部屋に入るばかりでなくキスまでする夫、といった、事態を緊迫させようという脚本家の意図が見え見えな行動には、白けると同時に苛立ちを覚える。結果、彼らに危険が迫るのにも「そらみろ」と感じてしまい、ホラーの演出としては拙い。またあの少年の顔の、可愛げに欠ける事。

街が壊滅するのも要はあの二人の子供、タミーとアンディの軽率さが原因であり、彼らが作劇上の優遇処置を受けて危難を潜り抜ける事にも疑念を感じる。子供だからという事で大人たちから助けられる上、母親の免疫を受け継いでいる可能性があるという事で、更にその生命は優先順位を高める。

だが、この、大人たちが皆つい手を差し伸べてしまう「子供」が人類のウィークポイントとなり、最終的にはパリにまで感染が広がってしまう、というこの事自体が、この映画の中心テーマなのだろう。母親の写真だけでも持っていたい、という思いや、自分が見捨てた妻との、贖罪と和解のキスが、クライシスの発端となる。後半では、被保護者であるアンディの顔にも感染者の返り血が顔にこびりついたままだ。守るべき者が最大の危険であるという逆説。

最後まで生き残ったタミーとアンディは、軍のヘリに拾われるが、そのヘリを描いたと思しき稚拙な絵に「パパへ」という添え書きのある紙が床に落ちているショット(ここにも「子供」「家族」の要素が)に続いて、地下から地上へ群れなして走りゆく感染者たちの姿。その先にはエッフェル塔。つまり、ヘリが救助したアンディは免疫を持っておらず、感染者はロンドンからパリまで拡大してしまったという訳だ。その事を示すこれらのショットの簡潔さそのものが、乾いた絶望感を漂わす。

アンディが姉と共に安全地帯にやって来た時の検査で、彼のオッドアイ(左右で瞳の色が異なる)は母親から受け継いだものだという台詞が出ていた。だが、人類全体にとっての希望となるべき免疫は受け継いでいなかったという事。そして、感染者の外見的な特徴は、目の色に表れるという事。彼のオッドアイという設定は、二重の意味で冷酷なのだ。

また、米軍が安全を保障していた筈のロンドンが壊滅し、感染者と見分けがつかなくなった民間人までもが無差別に射殺され、最後には大規模な空爆に至る、という事態の推移には、やはり「テロとの戦争」への皮肉が読みとれる。だがそれ以上に、愛する者を守りたいという感情、弱い者を救いたいという慈悲、感染を治癒する手段が残されているかも知れないという希望が、結果的には底無しの絶望を更に感染させていくという、この人間心理の根本まで解体せんとする徹底的なスプラッターへの意志こそが、この映画のイメージ的な感染力の源だろう。その意味では、先述したようなご都合主義ともとれる展開も、その奥にある破壊衝動の表れとして強引に是認させられてしまう面がある。

(評価:★4)

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