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[コメント] エイリアン(1979/米)

リプリーVSエイリアン、あるいは俺VSゴキブリ。
crossage

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ゴキブリの話をするのである。実家に住んでいた頃の話なのである。部屋にゴキブリが出たのである。俺は大のゴキブリ嫌いなのである。というかゴキブリが好きやつなんかいるのだろうかなのである。とにかく大のゴキブリ嫌いだから退治するのもイヤなのである。殺虫剤攻撃を食らってもがく様子とか、いつこちらに向かって飛んでくるのかわからないビクビク感とかがイヤなのである。でもそのときは家に誰もいなかったのでしょうがないから俺は奴とバトルすることにしたのである。

俺は裏声で「天誅!」と叫びながら殺虫剤をかけまくって隅っこに追い詰めたのである。しかしヘッピリ腰の姿勢だったのがいけなかったのか、詰めの甘さを露呈してしまい寸でのところで仕留め損ね、脇をスルスルと抜けられ台所に逃げ込まれてしまったのである。しかしかなり弱っていたようでもあるし、どうせ冷蔵庫の隅とかでのたれ死ぬだろうと思ったのである。それにオカンあたりが発見して勝手に退治してくれるだろうという無責任な期待もあったのである。念のため部屋を閉め切って、もうこっちに侵入して来ないようにし、俺は安心することにしたのである。エイリアンをとり残したマザーシップを捨て、シャトルで脱出したリプリーのように。

ところがそれからそれから数時間後。ゴキブリ出現のことなどすっかり忘れて、リラックスした姿勢でプレステをやっていると、ふと、俺のすぐ背後で何かが天井から落ちる気配を感じたのである。「すわっ」とばかりに振り向くと、そこには弱りきったゴキブリがいたのである。俺はアワを食って部屋の隅に逃げたのである。なぜだ。台所に追い出したはずなのに。どっから入ってきやがった。俺は狼狽したのである。マザーシップもろとも爆破させたはずのエイリアンが、脱出シャトルのなかですっかりリラックスして油断しきっていたリプリーの前に突然現れたときのように。あのときのリプリーのローライドの下着姿はなかなかソソるのである。じゃなかった、あれは本当に怖かったのである。

俺はそろそろと窓辺に近づき、窓を開けたのである。そしていつこちらに飛んでくるか分からない恐怖に怯えながら、おっかなビックリ、めっちゃ遠い距離から殺虫剤を噴射して、なんとか奴を窓の外に追い出すことに成功したのである。シャトル内部におけるエイリアンとの最後のバトルにおいて、エアロックからエイリアンを排出させたリプリーと同じように。

……殺したと思ったはずがまだ生きていたという恐怖、いつの間にか背後を取られている恐怖、いつこちらに向かって飛んでくるか分からない恐怖、そしてその造形の不気味さが醸す生理的な恐怖感、エイリアンの恐怖は、ゴキブリのそれとソックリなのである。一度その存在を気にしだすと、不在すらも、というか不在であること自体が恐怖の源となるような存在。映画『エイリアン』成功の要因は、「見えない恐怖」というきわめてクラシカルなホラー演出を効果的に用いたことにあるとされているが、俺にとってこの映画は、まず何よりも「ゴキブリ映画」なのである。イヤなものを思い出したのである。

そう、そいつはあなたのすぐ近くを何食わぬ顔で徘徊している……。忘れた頃に、すっかり油断しているところに不意にあらわれる。ホラ、あなたのいるPCディスクのうしろ!

(ごめんなさい)

(評価:★5)

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