[コメント] 実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(2007/日)
学生時代に「共産主義は嫌いだ。理屈は正しいかもしれないが実現性がない」と単なる世間話程度に発言したところ、実は左翼かぶれだった知り合いの女性からもの凄い勢いで反撃された。真面目に議論してもよかったのだが、相手の目つきが半端なく怖くて早々に切り上げたっけ…。
事件当時はまだ子供だった自分には、その時代の空気がわからなかったので何故に若者達が共産主義、しかも武力を用いた革命に傾倒していったのがよくわからなかったのだが、この映画を観るとその当時の流れや雰囲気から、何が彼らをかき立てていたのかはよくわかる。
安保やベトナム戦争を目前にして、日本がまた戦前のような全体主義の軍事大国になってしまうのを恐れていたのだろう。二度とあんな戦争はやりたくない、と。そう考えれば何百万人という学生が参加した幾多のデモなども非常に納得できる。
しかし、だからといってそれがテロや内ゲバ、そして凄惨なリンチ事件の要因として同一に語ることはできない。 連合赤軍のリンチ事件に関しては、TVのドキュメンタリーや「光の雨」などを見ていたのである程度は知っていたのだが、この映画のリンチシーンは総括のきっかけやリンチにいたるまでをバカ丁寧に映画いているので、今まで見た中では一番凄まじく、そして怖い。その怖さといったらもはやホラー映画といっていいくらいに恐ろしい。
一般的にはリーダーだった永田洋子と森恒夫の異常性と、リーダーのしての資質不足に帰結されることが多いように思われるが話はそれほど簡単ではない。限定的な思想と場所に閉じこめられたグループの集団催眠効果とも考えることが出来る。
冷静に考えればおそろしく出鱈目な理由により総括=リンチを受けると言うことに対して、誰でも反対意見を述べることが出来ないという状況が異常なのだ。 「髪をのばして、化粧をしているから、貴方は自己を共産化できていない」「○○とキスをしていたから共産化できていない」など、どこか共産主義と関係があるのだかさっぱりわからなく、単なる妬みでしかない理由によりリンチを受けるという状況は狂っているとしか言いようがないのだが、それに対してだれも反論せずに「意義なし」と同調していく様は空恐ろしい。何故誰も「永田、おまえこそが党を牛耳り独裁制を敷いているスターリン主義そのものではないか!」と言えないのか…。
これは共産主義というイデオロギーの問題ではなく、イジメ、新興宗教、オウム事件といった現代へ通ずる別の問題のような気がしている。外へ向かう明確な敵が消失した時に、内へ向かう暴力。これは連合赤軍だけの問題ではあるまい。
最後のあさま山荘事件シーンで加藤少年が「勇気がなかった。彼らを止めることができなかった」と叫ぶ。 じゃあ、本当に勇気があれば止められていたのだろうか?勇気があったら違う活動の方向性があったのだろうか?
勇気というのが資質であるならば、別のリーダーが立つことで変わったのかもしれない。ただ、リーダーになるような資質がある、冷静で判断力のあるヤツは共産主義に傾倒しないだろうけど…。 逆の言い方をすれば、陽のエネルギーを持ったリーダー達が高度成長期の日本を支えたとも言える。ホンダやソニーのように。
これは昭和の負のエネルギーを総括した一大叙事詩というえるだろう。 少ない予算の中で3時間超の作品を作り上げた若松監督に喝采を送りたい。
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