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[コメント] ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(2007/米)

つまらないはずのない力作を見る、という退屈。(2011.8.20)
HW

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 たとえば、オープニングの時点でもう結末が分かる、と言っても、なんの悪口にもならないのが、この映画の困ったところ。「オイル=血」と言われても、それ自体「あぁ、なるほど」とうなづくしかない。競争に明け暮れる石油屋の前に現われる田舎的な原理主義のキリスト教会が、現代へと続くアメリカの物語をうかがわせるが、これまたうかがわせるだけとも言える。「欲望」であれ「狂気」であれ「孤独」であれ「アメリカ」であれ、言われる前から分かっていたような話が映像のなかに見事(その見事さは否定しない)に定着させられている、というそれ以上でも以下でもなく、新しい発見というものが感じられないのだ。一般に映画を見ていて覚える「なるほど」には、「おぉ、なるほど!!」と「あぁ、なるほど」の二つがあるけど、この映画の与える「なるほど」は圧倒的に後者。画面に漲る緊張感が必ずしも作品と受け手のあいだの緊張感につながるわけではない、という典型だろう。

 その意味で、殻を破るような潜勢力を感じさせるところがあるとすれば、「お前のミルクシェイクを飲み干してやる!」のくだり。敢えてゲスな見方と言い方をするなら、女性にまるで出番らしい出番のないこの映画の全編を通して抑圧されている(ホモ)セクシャルなものも全部ここに濃縮されている感がある。ボウリング・レーンをばたばたとのたうちまわるポール・ダノを、小躍り気味にダニエル・デイ・ルイスが追い回すシーンは、コメディを通り越してホラーになりそうなところをやっぱりもう一回通り越してコメディ。冒頭に記したように、予定通り「ブラッド」のほうにあっさり帰着してしまうのが惜しまれる。たとえば、これが、掘ってやる掘ってやると叫びながら「ミルクシェイク」をすすらずにいられない男のおかしくも哀しき『ゼア・ウィル・ビー・ミルクシェイク』(これは別に私の考えたジョークではない)だったら、アカデミー賞は獲らないだろうが、私は三回くらい見直したかもしれない。というのはもちろん半分冗談だけれど、要するに、この映画は、一見痛ましく凄惨であるようでいて、実際のところは、「男性的」なるものとか、「アメリカ的」なるものとかといったセルフ・イメージに対してなんの揺さぶりも与えていないのではないか、そういう意味でひどく退屈なのだ(『チーム★アメリカ ワールドポリス』なら衝撃を与えるのかはともかく)。

〔2011/8/21追記〕

 投稿してすぐに悪い予感がしたのですが、"blood"や"milk"と違って、"milkshake"というのはどうも可算名詞扱いされるみたいです。「シェイク」したのはこの一つ、この二つだから、ってことでしょうか? 英語は難しいですね。ということで、正しくは、「ア・ミルクシェイク」ないし「ミルクシェイクス」だったようです。訂正。

(評価:★3)

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