[コメント] 大いなる陰謀(2007/米)
イラク戦争を継続するアメリカの現状を憂えているが、一方で、「ビン・ラディンに象徴されるテロリストはどんなことをしてでも倒さなければならない」、「アメリカが戦っている戦争は絶対に勝たなければならない」、この二つの命題には逆らえない。
この二つの命題は、その是非はおろか、その命題の前にあるはずの諸問題、「テロはなぜ生まれるのか。どうすれば根絶できるのか」、「なぜ戦争をしているのか。なぜ戦い続けなければならないのか。相手を倒す以外に、勝利以外に、終わりはないのか」などなどの、問いかけすら許されないものとして、今、アメリカの言論界を覆っているのではないか。
せいぜいが、この二つの命題の前に、「テロリストを倒すには、どうやるべきか」、「戦争に勝つには、どうやるべきか」、という選択肢しかありえないのか、それが今のアメリカなのだろうか、と思えてしまった。
ついでに言えば、劇中、ベトナム戦争での徴兵が引き合いに出された。ところが今のアメリカでは徴兵制度というものは必要ない、という指摘もされている。何故なら、経済格差が広がるアメリカで、軍隊は様々な経済的恩恵にあずかれる「就職先」であり、奨学金免除、医療保険適用、などなどの些細な上乗せを目当てにいくらでも「貧困層」が志願するからだ、というものだ。
そういう現状を、そういう現状をもたらしたものを、真剣に憂える製作サイドの誠実な態度は確かに伝わるが、しかしそれだけに余計に混迷の深さをも示しているような映画であった。
また、主演クラス3人の演技はさすがに貫禄ものであった。
しかし、イラク戦争開戦時に政府の尻馬に乗って国民を煽るために一役買ってしまったのではないかという思いをもつジャーナリストメリル・ストリープ、「国を変えよう」と軍隊に入った教え子をとめることが出来なかった大学教授ロバート・レッドフォード、についてその悔恨の情は確かに雰囲気を出していたしそれこそがベテラン俳優の味、なのだろうが、いかんせん、この二人のそういう心情にいたる背景はほとんど描かれていないから、どうしてもとってつけたような印象がぬぐいきれない。
この二人に比べれば、野心満々のタフガイ上院議員トム・クルーズは、ストレートに不敵さと自信のほどを誇らしげにひけらかすことができるから、トム・クルーズは他の二人に比べるとちょっと得をしている感じがする。
案外この辺が、この豪華3人俳優のキャリアの差を見越したキャスティングだったりして。
メリル・ストリープやロバート・レッドフォードでも、ストレートに不敵さと自信のほどをひけらかす演技はできるし、最近でも『プラダを着た悪魔』とか『スパイ・ゲーム』とかでそういう役をこなしている。
一方、トム・クルーズに悔恨の情を密かにひきずりながら、その時々を精一杯生きていく役が、この二人と同じレベルでこなせるかとなると、どうだろうか。
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