[コメント] ミスト(2007/米)
手持ちのカメラは時折ドキュメンタリー的な手法で人々を映し出す。実際に監督は2台のカメラで俳優たちのアドリブ演技を多く取り入れたという。
小さなスーパーマーケットに凝縮された「現代社会」は異常事態に尖鋭化する。結論は皆様が仰るように「一番怖いのは人間そのものだよ」というメッセージはこの擬似ドキュメンタリーの演出によって倍加させられた。そう、私も彼等の中に放り込まれたような感覚にさせられるのだ。
それ故の密室ドラマ。これがありきたりのSFドラマならば、舞台はマクロが用意され大統領やら勇気ある科学者などが活躍するのだろう。この時点で本作はSFドラマという枠を離れ「人間」を描いていく事を宣言するのだ。この決意こそが本作の最も賞賛されるべきものだと思う。もう、怪物やら軍の実験がどうしたとかいう事は枝葉にしか過ぎなくなっていく。正直に言えば、その辺りははっきりと写したり、明らかにする必要さえなかったのではと感じるぐらいだった。
その人間描写は「12人の怒れる男」を思わせるほどであり(ちょっと言い過ぎか)、ラストに至っては「猿の惑星」の衝撃を超えたのではないかと・・・・
娯楽映画という羊の毛皮を被り、しかもSF映画などという安直なジャンルに身をおいて本作は毒を吐き続けた。たかが娯楽、しかもSFにおいて本作は現代社会の歪や人間の狂気を抉った。
そしてラストには爽快感とは対極の毒を用意した。絶望の2時間を過ごしてきた観客に対し、映画的な希望やら爽快感・安堵といったものを廃し、究極とも言える絶望感を観客に叩きつけて終わらせた。観客に対する、否、映画に対する挑戦なのか皮肉なのか・・・
いずれにしても鑑賞後の気分の悪さは抜きん出ている。
そして気分が収まってきた頃、また再び鑑賞したくなるのだ。それほどの「映画の力」を持った稀な作品のひとつなのだ、本作は!
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