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[コメント] ブレス(2007/韓国)

言葉や‘息’の扱い方、四季の届け方など、発想は巧いが、それらが充分に映画的な旨みが出るほどに展開し得ていないのが惜しい。中盤では既に退屈になりかけているし、終盤は収まるべき所に大人しく収まった観がある。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ヨンがラストシーンの車内での合唱まで夫と会話を交わさない事や、彼女らが暮らすマンションのモダンな造形、ヨンが最初にチャンと面会した際に、まず、寒い所で待っていた彼女が苦しげに咳をし、続けて自分が溺れ死にかけた話をするという、‘Breath’という主題へ一直線に向かう表現など、撮りたい画しか撮るまいというギドクの徹底ぶりには唸らされると同時にちょっと呆れてしまいもする。だがその一本調子とも思える監督の意志があってこそ、ヨンが面会室の壁一面に展開する四季の鮮烈さ、陽気な歌の唐突さといった場面の驚きも可能になるのだろう。ただ、ヨンの写真がチャンに同性愛を抱く囚人によって毎回奪われる事や、季節が変わるだけで新しい展開も殆ど無い四季の届け方など、ワンパターンな繰り返しには飽きる。

四季を届ける、という行為は、死刑囚である事でいつ死ぬか分からない上に自殺未遂の常習者でもあるチャンに‘一年’という時間を贈ろうとする意図なのかどうなのか、明確には描かれていないが、取り敢えず、死刑囚という世と隔絶した存在と逢瀬を重ねるヨンの、季節外れの服も含めた、チャンと共に世間と隔絶した別の時間を生きているという状況を視覚化する事には貢献している。そして最後には冬という、現実の季節と一致する時を迎えたとき、壁に刻まれた「Breath」の文字以外には何も壁には無くなり、二人の逢瀬は肉体の契りという頂点と、別れという終焉を迎える事になる。

壁に刻むという行為は、冒頭から、チャンと同居する囚人が女の裸体を描く行為として見る事ができた。最後はヨンの写真を元にした肖像画が刻まれ、彼女の存在は、囚人たちの共有財産のようになる。壁に刻む、或いは風景写真を壁紙のように貼る行為。いずれも、‘壁’の閉塞感を打破しようという衝動の表れとして見るならば、チャンの自殺未遂もまた、壁の破壊の試みだったのではないか。だが、その自殺未遂のニュースに興味を惹かれたヨンは、監視モニターという‘壁’越しに妻の未知の姿を見た夫によって家庭に引き戻され、チャンは、彼との間に壁ができてしまった同性愛関係の囚人仲間によって首を絞められ、‘Breath’を止められる。考えられた構成とは言えるが、情念が図式の枠を越えずに走っていって終わりという物足りなさも感じずにはいられない。これはキム・ギドク作品の多くに共通する点でもある。

(評価:★3)

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